8月31日、Los Angeles Timesが「AI is watching your spending and setting your prices accordingly. Lawmakers want to stop it」と題した記事を公開した。この記事では、AIを使って消費者の個人データから「支払い意欲」を推定し価格を変動させる「サーベイランス価格設定」を禁止しようとするカリフォルニア州の立法動向について詳しく紹介されている。消費者の76%が個人データに基づく価格差別を不公平と感じているという調査結果がある一方、スクロール位置や翌日配送の選択まで追跡して価格を操作する実態がFTCの調査で明らかになっており、立法・規制論争は全米規模に広がっている。
JetBlueの「ブラウザ履歴を消去して」発言が訴訟に発展
2025年、ニューヨーク州在住の利用者がJetBlue航空を提訴した。訴状に添付されたスクリーンショットには、X(旧Twitter)上のやり取りが写っていた。あるユーザーが「葬儀に間に合わせたいのに、フライト代が1日で230ドルも上がった」とJetBlueに苦情を投稿すると、同社の担当者は「ブラウザ履歴を消去してからもう一度試してみてください」と返答していた。
訴状が主張したのは、JetBlueが収入・直近の検索履歴・切迫度といった個人データを使って航空券の価格を設定していたという疑惑だ。JetBlueはこれを否定している。
この問題は「サーベイランス価格設定(Surveillance Pricing)」または「パーソナライズド価格設定」と呼ばれる。特定の顧客がいくらまで払えるか・払う意欲があるか——経済学でいう「支払い意欲(Willingness to Pay)」——をAIとリアルタイムデータで推定し、人によって異なる価格を提示する手法だ。
データ収集の実態:スクロール位置まで追跡
2024年に連邦取引委員会(FTC)が実施した調査では、MasterCard、JPMorgan Chase、複数の小売価格設定ソフトウェア企業を含む8社に対して情報開示命令を出した。その結果、企業が収集していたデータは想像以上に細かかった。
- IPアドレス・言語設定
- ウェブページ上で商品名をハイライトしたかどうか
- ページをどこまでスクロールしたか
FTCの報告書には具体的なユースケースも記されている。「新米の親」とプロファイリングされた顧客が赤ちゃん用体温計を探すと、高価格帯の商品を優先表示する。さらに翌日配送を選ぶと「急いでいる=高くても買う」と判断され、将来的に高い価格を提示される可能性があるという。
スーパーマーケット大手Krogerも、Consumer Reportsの昨年の調査で同様の手法が明らかになった。同社は購買者のデモグラフィック情報を収集してパーソナライズドな割引を提示していたが、ある利用者については学歴や子供の人数など基本的な情報すら誤っていたという。
カリフォルニア州AB 2564:禁止法案の行方
カリフォルニア州議会ではAssembly Bill 2564が審議されていた。AI等のテクノロジーを使って個人データから価格を設定する行為を違法とするものだ。
法案を提出したクリストファー・M・ウォード議員(民主党・サンディエゴ選出)はこう述べている。
「カリフォルニアは州全体として平均所得が高いから、コンピューターのアルゴリズムがアリゾナ州の人より高い価格を提示する——これは公平性の問題だ。」
この法案は5月に下院を通過し、立法年度の最終期限である現地時間8月31日深夜0時までに上院での採決が予定されていた。本稿執筆時点(9月1日)では採決期限は既に過ぎており、法案が成立したか否かの詳細は元記事および公式立法情報を確認されたい。
他州でも同様の動きは広がっている。ニュージャージー州はすでに類似法を成立させており、ニューヨーク州では知事の署名待ちの段階にある。FTCも今月、パーソナライズド価格設定の不開示に対して法執行方針の指針案を発表した。
「禁止すると消費者が損をする」という反論
一方、規制に慎重な論者も多い。
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのJean-Pierre Dubé教授は、2022年の研究(就職情報サイトZipRecruiterを対象)を引き合いに出す。同社がパーソナライズド価格設定を導入したところ、顧客の60%以上が研究者の算出した最適価格より低い価格を提示されていた。企業の収益は上がりつつ、多くの顧客は安く買えていたというデータだ。
「パーソナライズド価格設定が悪いと決めつけると、実は恩恵を受けていた顧客を不利にしてしまうかもしれない」(Dubé教授)
コロラド州のジャレッド・ポリス知事は6月、類似法案に拒否権を発動。「値上げだけでなく値下げも制限してしまう」と指摘した。
「価格の基準値」が消える問題
スタンフォード大学のJen King研究員は、価格の透明性が失われることによる別のリスクを指摘する。
「透明性がなければ、自分が支払っている金額が正当なのか、本当に割引されているのか、ずっと推測し続けることになる。」
消費者の76%が個人データに基づく価格差別を不公平と感じているという数字がある。これはGroundwork Collective——企業による消費者データ利用の監視・調査を行う非営利の消費者擁護団体——が実施した調査によるものだ。経済学的には一概に「悪」とは言えない手法でも、消費者の大多数が不公平と感じているというこの構造的な矛盾が、規制論争の核心にある。
詳細はAI is watching your spending and setting your prices accordingly. Lawmakers want to stop itを参照していただきたい。