9月1日、Googleが「TimesFM-3: A zero-shot foundation model for multivariate forecasting」と題した記事を公開した。時系列予測基盤モデルの分野では、MetaのChronosやAmazonのMoiraiなど大手各社が競合モデルを投入しており、ゼロショット性能と多変量対応の両立が主要な競争軸となっている。Googleが2024年に投入した「TimesFM」シリーズはその有力な選択肢のひとつだったが、最大の弱点として「単変量予測にしか対応しない」という制約を抱えていた。今回発表されたTimesFM-3はその制約を正面から解消し、外部の天気予報やプロモーション計画といった情報もゼロショットで活用できる多変量対応モデルへと進化した。
ユニバリアート(単変量)限定だった制約を突破
Googleの時系列予測基盤モデル「TimesFM」は2024年に初登場し、小売・金融・製造・ヘルスケア・自然科学など多分野での実応用が進んできた。しかし2025年9月にリリースされたTimesFM-2.5まで、このモデルには大きな制約があった。ユニバリアート(単変量)予測のみ対応——つまり、1本の時系列の過去データだけを使って将来を予測するアーキテクチャだった。
現実の予測問題はそう単純ではない。アイスクリームの販売数を予測するとき、過去の販売数だけでは不十分だ。コーンやシロップなど関連商品の売れ行き、過去の来客数、さらに天気予報・プロモーション・祝祭日といった「未来に関する既知の情報」も組み合わせて初めて精度が上がる。
今回発表されたTimesFM-3は、この「多変量予測」をゼロショット(タスク固有のファインチューニングなし)で実現する点が核心だ。
TimesFM-3の構成
- パラメータ数: 3億3000万(330M)
- 事前学習データ: 実データと合成データを合わせた1兆以上の時点(time points)を含む時系列コーパス
- 対応予測タイプ: ポイント予測・分位点(クォンタイル)予測の両方
前世代のTimesFM-2.5はパラメータ数200Mだったのに対し、TimesFM-3は330Mへと拡大している。元記事によれば、複数のベンチマークデータセットにおいてTimesFM-2.5を上回る精度を示しており、特に多変量シナリオでの改善幅が大きいとされている。ゼロショット性能を維持したまま多変量対応を追加した点が、従来モデルとの最大の差分だ。
多変量シナリオへの対応は以下の3軸で整理されている:
複数ターゲット(Multiple targets)
複数の関連時系列を同時に予測する。例えば、異なるブランドのアイスクリームを同時予測する場合、各シリーズ間の共変動(複数系列が連動して変化する関係性)をモデルが捉えることで精度が向上する。ポイント・分位点予測ともに全ターゲットで対応。過去共変量(Past covariates)
過去のデータとしてのみ観測可能な外部特徴量(例:過去の来客数)を取り込める。未来値が得られない特徴量の活用がここに当たる。過去・未来共変量(Dynamic covariates)
将来が既知のイベント情報(計画済みのキャンペーンや天気予報など)を予測に反映できる。実務でよく登場するカレンダー特徴量やプロモーション計画がこれに相当する。
ゼロショットで動く、という意味
TimesFM-3の特徴として強調されているのが「ゼロショット汎化(zero-shot generalization)」だ。学習済みモデルをそのまま使って、タスク固有のファインチューニングなしに多変量予測を実行できる。
これは実務上の導入コストに直結する。新しいドメインやデータセットに適用するたびに再学習が必要なモデルと比べ、迅速な検証・展開が可能になる。具体的には、小売業であれば新商品の販売予測を即日立ち上げられるし、エネルギー分野であれば気象データと需要実績を組み合わせた予測をファインチューニングなしで試せる。前世代モデルのゼロショット性能を引き継ぎながら多変量対応を追加した設計は、そのコンセプトを一貫させたものと言える。
なお、MetaのChronosやAmazonのMoiraiといった競合の時系列基盤モデルも多変量・ゼロショット対応を進めており、TimesFM-3はその流れに追随しつつ、Googleの大規模事前学習コーパスを強みとして差別化を図る位置づけと見られる。
※編集部の考察:競合モデルとの定量的な比較は元記事では限定的であり、実用場面での優劣については今後の独立したベンチマーク評価を待つ必要がある。
分位点(クォンタイル)予測への対応
TimesFM-3はポイント予測(単一の予測値を出力)だけでなく、分位点(クォンタイル)予測にも対応している。分位点予測とは、「中央値」や「90パーセンタイル値」といった確率的な予測幅を出力する手法で、需要の上振れ・下振れリスクを定量的に評価したい場面で有用だ。在庫管理や需給計画など、予測の不確実性を考慮した意思決定が求められる業務での活用が想定される。
モデルへのアクセス
TimesFM-3はHugging Face上で公開されており、PyTorchベースで利用できる。TimesFMシリーズのコードベースや利用方法については公式GitHubリポジトリも参照されたい。
詳細はTimesFM-3: A zero-shot foundation model for multivariate forecastingを参照していただきたい。