9月1日、Varietyが「Sony Music Publishing, Warner Chappell Allege Anthropic Launched 'Brazen Campaign' to Illegally Train Claude on Copyrighted Songs in New Lawsuit」と題した記事を公開した。ソニーミュージックパブリッシングとワーナーチャペルミュージックがAnthropicを著作権侵害で連邦裁判所に提訴した件について詳しく報じている。
「大胆な著作権侵害キャンペーン」と断じた訴状
ソニーミュージックパブリッシングとワーナーチャペルミュージックは、AI企業Anthropicおよびそのオーナー陣に対し、カリフォルニア州北部連邦地方裁判所に訴訟を提起した。被告にはAnthropicのCEO ダリオ・アモデイ(Dario Amodei)と共同創業者ベンジャミン・マン(Benjamin Mann)が名指しされている。
48ページに及ぶ訴状は、AnthropicがAIチャットボット「Claude」の学習のために、両社が権利を持つ楽曲を「大規模にトレント・スクレイピング・ダウンロードする厚かましいキャンペーン」を展開したと主張している。
訴状に具体的に挙げられた楽曲には、以下が含まれる:
- マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの「Ain't No Mountain High Enough」
- マライア・キャリーの「All I Want for Christmas is You」
原告側弁護士は「被告らはもはやその異常な盗用を隠し通せない。大規模な侵害はすでに十分に証拠化されている」と主張した。
請求内容と法的根拠
原告が裁判所に求める主な内容は以下の通りだ:
- 違法なトレーニングの即時停止
- 侵害著作物1件あたり最大15万ドルの法定損害賠償
Anthropicの広報担当者は、この訴訟を「すでに裁判所で係争中の事案の焼き直し」と一蹴し、「生成AIモデルのトレーニングはフェアユース(公正利用)に当たる」との立場を示した。同社が言及した「Bartz判決」とは、著者らがAnthropicを訴えた著作権侵害訴訟(Bartz v. Anthropic)を指す。同訴訟はAnthropicが15億ドルで和解したとAnthropicの広報コメントを通じて伝えられており、Anthropic側はその文脈で「著作権コンテンツによる学習は認められるが、そのコンテンツを海賊行為によって入手することは認められない」との枠組みを援用している。ただし、和解は裁判所による法的判断を示すものではなく、この枠組みが確定した判示内容であるわけではない点には留意が必要だ。今回のソニー・ワーナー側の弁護団は、このBartz訴訟でも代理人を務めた陣営と重なっている。
音楽業界 vs. 生成AI——訴訟の連鎖
この提訴は孤立した事例ではない。音楽業界のAI企業に対する訴訟は相次いでいる:
- Concord Music Group・Universal Music Groupらの音楽出版社グループがAnthropicを提訴済み
- BMGが2025年3月にAnthropicを提訴
- Round Hill Musicが直前月にAnthropicを提訴(関連記事)
並行して、AIによる音楽生成ツールのSuno・Udioに対する訴訟も進行している。WMGはSuno・Udio双方と和解。UniversalはUdioと合意に達したが、Sunoとは係争継続中。ソニーミュージックはSuno・Udio両社とも現在も訴訟中だ。
音楽業界がAI企業に対して訴訟とライセンス契約の両面で動く構図は定着しつつある。多くの場合、まず訴訟を起こしてから交渉・合意に移行するパターンが繰り返されている。
エンジニアが押さえるべきポイント
Anthropicが援用する「学習はセーフ、海賊行為はアウト」という枠組みは、AI開発における学習データの調達経路が法的リスクの核心になることを示唆している。今回の訴状はまさにその点を突いており、データをどこから・どのように入手したかが問われている。
この問題が音楽著作権の領域で特に先鋭化する背景には、著作権の構造的な複雑さがある。音楽には大きく分けて「楽曲著作権(musical composition)」と「原盤著作権(sound recording)」の二層が存在する。楽曲著作権は作詞・作曲者が持つ歌詞・メロディへの権利であり、ソニーミュージックパブリッシングやワーナーチャペルといった音楽出版社が管理する。これに対して原盤著作権は、特定の録音物そのものに対する権利でレコード会社が持つ。今回の訴訟が問題にしているのは前者——歌詞や楽曲構造——をモデルに学習させた行為だ。テキストベースのLLMが歌詞を大量に取り込む場合、その一行一行が独立した著作物として保護される可能性があり、侵害件数が膨大になりやすいという特性がある。これが「1件あたり最大15万ドル」という法定損害賠償の脅威と組み合わさったとき、訴訟リスクの規模は他のコンテンツ分野と比較にならないほど大きくなりえる。
実務的には、学習データセットの構成・取得方法・ライセンス確認の記録を整備しておくことが、今後のAI開発における基本的なリスク管理となりつつある。