9月1日、Runtime Wireが「Nscale closes $3B in debt commitments for two US AI campuses」と題した記事を公開した。炭鉱労働者からビットコインマイニングを経てAIインフラへと転じた異色の創業者Josh Payneが、1年足らずで総額約30億ドル(1ドル=約147円換算で約4400億円)の負債コミットメントを積み上げた。電力・土地・GPU・ソフトウェアを一社で抑える「フルスタック」戦略の全容が、今回の融資完了でより鮮明になった。
30億ドルの融資枠、その構造
NscaleのファウンダーでCEOのJosh Payneは、テキサス州ウォード郡とノースカロライナ州マディソン郡のAIキャンパスに対し、シニア担保付き遅延引出し型タームローン(Delayed-Draw Term Loan)を2本締結した。テキサスに最大18億5000万ドル、ノースカロライナに最大12億ドルで、合計の上限は30億5000万ドルになる。
「遅延引出し型」という構造は重要な点だ。これは資金を一括で借りるのではなく、適格なプロジェクト費用が発生した段階で順次引き出せる仕組みである。つまり、8月31日の「クロージング」は融資枠の確定であり、Nscaleが30億ドル全額を借り入れた、あるいは設備を設置済みであることを意味しない。
両ローンはともに投資適格格付け(安定的見通し付き)を取得しており、J.P.モルガンとゴールドマン・サックスが共同ブックランナーおよびアレンジャーを務めた。格付け機関、金利、満期などの詳細は非公開である。
3月以降で累計約60億ドルの資本調達
今回の負債はPayneが短期間で積み上げてきた資本構成の一部だ。
- 2025年3月:Aker ASAや8090 Industriesが主導するシリーズC(20億ドル)を完了。評価額は146億ドル。NVIDIA、Dell、Citadel、Nokia、Jane Streetらも参加
- 2025年7月:12の銀行にシンジケートされた9億ドルのリボルビングクレジットファシリティを締結
- 2025年8月:今回の30億ドルの負債コミットメント
これらを合算すると、3月以降にNscaleが発表した株式・信用枠の合計は約59億5000万ドルに達する。
テキサスとノースカロライナ、それぞれの規模
テキサス州ウォード郡には最大18億5000万ドルが投じられ、NVIDIA GB300 Blackwell UltraおよびVR200 Vera Rubinシステム、ネットワーク機器、ストレージ、液冷設備を調達する。NscaleはITロードとして約275MWを見込んでいる。
サイトはビットコインマイニング・データセンター事業者のIonic Digitalと共同開発しており、現行容量234MWで将来的には約700MWへの拡張が可能とされる。IonicがSECに提出した目論見書によれば、Nscaleは126ヶ月のトリプルネットリース(※建物の維持費・税金・保険をテナントが負担する長期賃貸方式)を締結し、2025年11月に4560万ドルを前払い済みで、固定賃料は2026年8月1日に開始している。また同書類には、Microsoftが2027年後半以降に同サイトの追加電力に対するオプションを持つことも記載されているが、MicrosoftがこのローンのAnchor顧客であるとは明示されていない。
ノースカロライナ州マディソン郡には最大12億ドルが充てられ、96エーカーのコロケーションサイトの改修、GPU、ネットワーク機器に使われる。Duke Energyから99MWの電力を確保済みで、2026年中に最大40MWのITキャパシティが稼働予定とされる。
フルスタック戦略とAnyscale買収、そして創業者の来歴
Payneが目指しているのは、電力・土地・GPU・ネットワーク・ストレージ・ソフトウェアまでを一社で抑えるフルスタックAIインフラの構築だ。その文脈で見ると、今回の融資完了が、NscaleによるAIワークロード向け分散処理プラットフォーム「Ray」の開発元Anyscaleの買収(報道では約16億5000万ドル)からわずか1ヶ月後というタイミングであることは示唆的だ。Anyscaleが「モデルのトレーニングと推論を動かすエンジニア側のソフトウェアレイヤー」を担い、テキサスとノースカロライナが「その下に敷かれる電力集約型の物理インフラ」を担う構図である。
この戦略の骨格は、Payne自身の経歴に根ざしている。オーストラリア出身の同氏は、炭鉱労働者から建設業向け採用プラットフォームを経て、再生可能エネルギー投資とビットコインマイニングへと転じた。Inc.の報道によれば、安価な電力と適切なサイト確保が勝負を決めるというマイニング時代の知見が、現在のAIインフラ事業の根幹を形成している。Nscale自体は2024年5月にマイニング・データセンター事業者Arkon Energyからのスピンオフとして英国で設立されたばかりだ。
フルスタック戦略は外部の地主やソフトウェアベンダーへの依存を減らす一方で、建設・チップ調達・資金調達・顧客需要という異なるタイムラインで動く資産を同時に管理する複雑さを伴う。GPUは電力インフラより速く調達できるが、ローン返済はキャンパスが稼働率目標に達する前から始まる。
投資適格格付けの取得により、Payneはベンチャーエクイティだけでは届かない資本プールへのアクセスを得た。ただし、ローンを実際に引き出すには条件の充足が必要であり、今回のクロージングは建設スケジュールを短縮するものではない。
詳細はNscale closes $3B in debt commitments for two US AI campusesを参照していただきたい。