8月31日、gHacksが「South Korea to Offer Its Entire Population Free AI Access With No Token Limits」と題した記事を公開した。韓国政府が全国民5,100万人を対象にトークン制限なしの生成AIサービスを無償提供する「AI for All」構想だ。国家単位でプレミアム品質のAIアクセスを全国民に無制限・無料で保証するという試みは、世界的にも前例がない。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を受け、gHacksが詳細を伝えている。
前例のない規模:5,100万人へのAI無制限開放
「AI for All」は、全国民に対してトークン制限なしの生成AIサービスを無料で提供するという政策だ。単なる「無料AIチャットボット」ではなく、政府システムと直接連携する点が最大の特徴である。想定される用途は以下の通りだ:
- 医療機関の予約
- 住宅(賃貸物件)の検索
- 税務申告のアドバイス
- 中小企業向けの補助金適格性の確認
- 保護者向けの教育コンテンツ推薦
ベータテストは2026年9月に開始予定で、年内に本格ローンチされる見通しだ。
運営体制:「Friday」コンソーシアムとNvidia B200チップ
政府はサービス提供のために3つの技術コンソーシアムを指定し、それらを総称して「Friday」と呼んでいる。Fridayはプロジェクト全体の枠組みを指す名称であり、各コンソーシアムはそれぞれ独自のAIアプリケーションをリリースするとともに、既存製品への生成AI機能の統合も行う。
参加企業は韓国の2大通信会社と、国内最大級のコンシューマープラットフォームであるKakaoの運営会社を中心に構成される。KakaoはLINEの親会社であるNAVER(LINEヤフー)と並ぶ韓国IT大手であり、日本でも広く使われているLINEと同じ韓国発のメッセージ・プラットフォーム文化を代表するサービスだ。
インフラ面では、政府がNvidia B200チップを最大512枚、3つのコンソーシアムに分配する。B200はNvidiaの現行ハイエンドAI向けGPUであり、その運用コストの一部も政府が負担する。ただし、科学技術情報通信部(Ministry of Science and ICT)はプログラムの総費用を公表していない。
なぜ今か:国産AI育成と脱・米中依存
この政策の背景には、韓国政府の明確な産業戦略がある。米国・中国製AIへの依存度を下げ、国内AI産業を育成することが狙いだ。国産AIサービスを無料でプレミアム品質のまま提供することで、消費者を国内製品へ誘導する構図である。
財政規模も異例だ。元記事の報道によれば、李在明(イ・ジェミョン)政権は2026年のAI関連予算として約10兆ウォン(約72億ドル)を計上しており、これは前年比で3倍にあたる。
市場の下地も整っている。政府が今年実施した調査によれば、韓国国民の約25%が有料AIサービスを利用している。同時期にPNCバンクが行ったアメリカの調査では有料AI利用者は約2%にとどまっており、韓国のAI普及率の高さが際立つ。また、無料の生成AIツールを使う韓国人ユーザーは2,000万人超と政府は見積もっている。
残された不明点
本格ローンチに向けて、依然として明らかになっていない点が複数ある。
- 登録手続きの詳細(どのように申し込むのか):全国民を対象とするだけに、本人確認や認証の仕組みが注目される
- 3つのコンソーシアムのうち、どこが先行してサービスを提供するか:Fridayの枠組み内での役割分担が明示されておらず、競合・棲み分けの構造が不透明だ
- 医療予約や税務アドバイスの具体的な実装方法:政府の機密性の高いシステムとAIをどう安全に統合するかは、技術的にも制度的にも最大の難所となる
- プログラムの総費用:B200チップの分配数は示されているが、運用コストを含む全体の財政規模は未公表のままだ
これらの不明点は単なる「詳細未定」ではなく、政策の実効性を左右する核心的な問いである。特に政府システムとのAI統合は、セキュリティ・プライバシー・行政責任の観点から、実装の難度が極めて高い領域だ。ベータテストの結果がどこまで公開されるかも、今後の注目点となる。
国民全体を対象にトークン制限なしのAIサービスを提供するという試みは、AI政策のあり方そのものを問い直す動きとして、各国の政府や企業から注目を集めるだろう。
詳細はSouth Korea to Offer Its Entire Population Free AI Access With No Token Limitsを参照していただきたい。