8月31日、The Next Webが「Meta's $10bn Anthropic habit, and the IPO it could dent」と題した記事を公開した。MetaがZuckerbergの公的な批判とは裏腹に、競合であるAnthropicのAIモデルに年最大100億ドル(約1.5兆円)を支出していたと内部試算されていた事実を詳報している。「公言と実態の乖離」「自社エージェントへの依存」「IPOへの潜在的影響」という三つの軸で構成された、AI業界の現在地を鮮やかに切り取った記事だ。
公言と実態の乖離
Zuckerbergは今月、6,500語に及ぶエッセイを公開し、大手AIラボが権力を集中させようとしていると批判した。名指しはしていないが、文脈からAnthropicやそのCEOであるDario Amodeiを念頭に置いた発言と読める内容だ。「それらのラボが主導すれば、権力の均衡は個人より大きな組織に傾く」と彼は書いた。
だが、支出の実態はその言葉と正反対だった。
New York Timesの報道(記者はEli TanとKalley Huang)によれば、Metaは今年の大半を通じてAnthropicのモデルを大規模に購入し続けており、現在も月に数億ドル規模の支出が続いている。Meta、Anthropicの双方ともコメントを拒否している。
エンジニアが火をつけた
支出が急拡大したのは今年初頭だ。MetaのエンジニアたちがAnthropicのコーディングツール「Claude Code」を集中的に使い始めた。
4月には、社内リーダーボードで誰が最も多くのAnthropicトークンを消費できるかを競う文化まで生まれた。業界では「tokenmaxxing(トークンマキシング)」と呼ばれる行為で、AIモデルへの入出力量(トークン数)を意図的に極大化することを指す。モデルの処理能力を限界まで引き出す実験的手法として一部エンジニアの間で広まった概念だ。Meta幹部がこの時期に年間100億ドル(約1.5兆円)という試算を議論していた。
その後、トークンコストが上昇し、Metaはリーダーボードを廃止。6月には、AI利用全体で今年数十億ドル規模の支出が見込まれると社員に伝え、コスト管理の仕組みを整備すると表明した。Microsoftも8月に同様の対応として部門別予算を設けている。
自社エージェントもClaudeで動いていた
さらに踏み込んだ話もある。Metaが社内で「Hatch」と呼ぶ消費者向けAIエージェントは、開発・テスト段階でAnthropicのモデルを使って動かされていたと、事情を知る4人が証言している。ZuckerbergがMetaの次のブレークスルーと表現し、「24時間365日、目標達成・健康・人間関係・財務の改善を手伝う」と説明したプロダクトだ。TNWは先週、月額最大199.99ドルの有料プランを検討していると報じている。なお、同記事ではHatchの試作モデルが「Watermelon」という開発コード名で呼ばれていることも明らかにされており、Hatchの量産前段階にあたる内部モデルと位置づけられている。
正式リリース版はMetaの自社モデルで動く予定だが、開発の中核にAnthropicの技術が使われていたという事実は重い。
IPOへの潜在的な影響
この話の背景には、AnthropicのIPOがある。AnthropicはIPO準備中で、評価額は2兆ドル(約290兆円)、調達額は最大1,000億ドルを目指すとTNWは報じている。
MetaのAIプロダクト責任者であるNat Friedmanは、一部の社員に対し、自社ツールやOpenAIのツールだけを使えばAnthropicのIPO前に同社の収益を押し下げられると伝えていたという。ただし、これはFriedmanが一部社員に語った発言として伝わっているものであり、Metaとして公式に表明された方針ではない点には留意が必要だ。
Metaはすでに今夏、一部のAnthropic向け支出を削減している。8月には自社コーディングツール「Muse Code」をアップデートし、社員がClaudeからの移行を進めている。Microsoftも6月にAI責任者が「AnthropicへのAPIコストをゼロにしたい」と公言している。
「まるで敵対する将軍たちが戦場で競い合っているようだ。みんなあのIPOを不安定にしようと動いている」— Theory VenturesのTomasz Tunguz
カネは双方向に流れる
興味深いのは、同じ月に逆方向の提案も存在していた点だ。6月、AnthropicはMetaに対し、2年間で最大100億ドル分のコンピューティングリソースをMetaのデータセンターから購入するという提案を持ちかけた。TNWが報じていた交渉だ。こちらも現時点では合意に至っていない。
「MetaがAnthropicへ支払う約1.5兆円」と「AnthropicがMetaへ支払う約1.5兆円」。方向は逆だが同規模の数字が、同じ時期に同じ2社間で議論されていた。
採用では歯が立たなかった
昨夏、Metaは9桁(100億円超)の報酬パッケージを提示してライバル企業のAI研究者を引き抜こうとした。OpenAIやGoogleからは一部採用に成功したが、Anthropicからの採用はほとんど失敗したと、事情を知る3人が語っている。
競合からモデルを買い、競合を採用しようとし、競合のIPOに揺さぶりをかけようとする——これが現在のAI業界の標準的な競争様式だという見方もある。MicrosoftはOpenAIの初期投資家でありながら独立性を強調し、NvidiaはMetaとGoogleの双方と数十億ドル規模のパートナーシップを結びながら両社がチップ内製化を進めるのを眺めている。
注目すべき数字は、Metaの自社モデル「Watermelon」のリリース時期(早くても10月)と、その前にMetaの月次支出がどこまで下がるかだ。
詳細はMeta's $10bn Anthropic habit, and the IPO it could dentを参照していただきたい。