8月31日、SiliconANGLEが「Nvidia invests $3.5B in MediaTek as part of expanded AI chip partnership」と題した記事を公開した。NvidiaがMediaTekに35億ドル規模の転換社債を購入し、AIチップ分野での協業を大幅に拡大したことを報じるものだ。注目すべきは単なる財務的な出資にとどまらず、NVLink Fusionと新たに追加されたNVHBMという二つの技術をMediaTekのカスタムAIチップに組み込ませることで、Nvidiaがサードパーティ設計のアクセラレータにも自社のエコシステムを浸透させようとしている点である。
転換社債という手法——Nvidiaの「投資しながら提携する」戦略
Nvidiaが購入したのは株式ではなく転換社債(Convertible Bond)だ。転換社債は、保有者が将来的に株式へ転換できる債務証券であり、通常の社債より柔軟な性格を持つ。確定的な議決権を持たずに財務的なアップサイドを取りながら、技術提携の深化を通じて影響力を行使できる構造だ。Nvidiaはこの手法で技術パートナーへの出資を繰り返している。今年3月にはMarvell Technologiesに対しても20億ドル規模の転換社債を取得しており、今回のMediaTek向け35億ドルはその規模を大きく上回る。
台湾に本社を置くMediaTekは、スマートフォン向けSoC(System on Chip)の世界最大級のサプライヤーである。調査会社Counterpointによれば、MediaTekはグローバルのスマートフォン向けアプリケーションプロセッサ市場において長らく首位争いを演じており、QualcommのSnapdragonシリーズと激しく競合してきた。一方で近年は、その設計力をAIアクセラレータの受託設計事業にも応用しており、データセンター向けカスタムチップの開発を積極化している。Nvidiaが今回の協業で最初に位置づけているのはこのカスタムチップ設計部門だ。
NVLink Fusion——MediaTekのカスタムAIチップに載る高速インターコネクト
AIアクセラレータの受託設計を依頼する企業は、オンチップのネットワーク技術をカタログから選択できる。この選択肢に今後、NvidiaのNVLink Fusionが加わる。
NVLink Fusionは、NvidiaのGPU・CPUとサードパーティ製チップ間のデータ交換を可能にするインターコネクト技術だ。その基盤となる**NVLinkは、標準的なPCIe 6.0実装と比べて10倍以上**の速度でデータを転送できる。AI推論・学習ワークロードにおいてチップ間通信のバンド幅がボトルネックになりやすい今日、この差は処理性能に直結する。
さらに8月末、Nvidiaはこの技術にNVHBM(NV High Bandwidth Memory)サポートを追加した。従来、グラフィックカードの搭載メモリ(HBM)はGPUのロジックダイ上のメモリコントローラによって管理されていた。NVHBMはそのコントローラをHBMメモリ側のダイに移動させる設計で、Nvidiaによればデータ転送速度の向上と消費電力の低減を両立する。カスタムチップを設計する企業にとっては、Nvidiaのメモリ技術を自社設計に取り込みやすくなることを意味し、エコシステムへの依存度がさらに高まる構造でもある。
個人向けコンピューティングと車載の両軸でも連携
協業拡大は3つの領域をカバーする。
① パーソナルコンピューティング
2025年にNvidiaが投入した開発者向けワークステーション「DGX Spark」はMediaTekが設計に関与したSoCを搭載している。今年6月にはラップトップおよびデスクトップ向け「RTX Spark」プロセッサも発表済みだ。MediaTekはCPU部分やRTX Sparkのメモリコントローラといったコンポーネントの開発を担っている。両社は今後も複数世代にわたってRTX SparkおよびDGX Sparkを共同開発すると明言した。
② 車載(ソフトウェア定義車両)
MediaTekは車載ディスプレイ向けSoCシリーズ「Dimensity Auto」を展開しており、Nvidiaのグラフィクスレンダリングチップレットを内包している。両社は今後もソフトウェア定義車両向けチップの共同開発を継続する方針だ。
③ カスタムAIアクセラレータ
前述のNVLink FusionおよびNVHBMを組み込んだカスタムAIチップの受託設計が、今回の提携で最も戦略的な領域に位置づけられている。大手クラウドプロバイダーや企業が独自設計のAIチップを求める動きが加速するなか、MediaTekの設計力とNvidiaのインターコネクト・メモリ技術の組み合わせは、この需要を取り込む狙いがある。
MediaTekにとっての意味——データセンター事業の急拡大と競争環境
MediaTekは自社のデータセンター向けチップ設計グループの年間売上高予測を20億ドルに倍増させたばかりで、今後数年でさらに数倍に成長させる目標を掲げている。スマートフォン市場ではQualcommと激しく競合しながらも、AI・データセンター領域では異なる戦略をとっており、Nvidiaとの深化した関係はこの成長戦略の柱となる。
一方、Nvidiaにとっては、カスタムチップ設計を請け負うMediaTekを通じて、自社GPUを採用しない顧客企業のシステムにもNVLinkエコシステムを埋め込む回路が整う。直接のGPU販売とは異なるルートでの影響力拡大という意味で、今回の出資は単なる財務的提携を超えたプラットフォーム戦略の一手といえる。
NvidiaのJensen Huang CEOは「我々は共に、Nvidiaの加速コンピューティングを新市場に届け、顧客が大規模に差別化されたAIシステムを構築できるプラットフォームを作っている」とコメントしている。
詳細はNvidia invests $3.5B in MediaTek as part of expanded AI chip partnershipを参照していただきたい。