8月30日、The Newsが「AI hardware demand adds 0.4% to US inflation」と題した記事を公開した。AIハードウェア需要が米国のインフレ率に関税と同水準の押し上げ圧力をかけているという、ミネアポリス連邦準備銀行(Minneapolis Fed)の分析を詳しく紹介している。
関税よりもAI需要——インフレを押し上げる「もう一つの要因」
インフレの原因として関税が注目されがちだが、Minneapolis Fedが8月29日に公開した研究は、異なる構図を示している。
同研究によれば、関税がコアPCEインフレ率(個人消費支出物価指数のうち食料・エネルギーを除いた指標で、Fedが金融政策判断に用いる中心的な物価指標)を0.2〜0.4ポイント押し上げているのに対し、AIハードウェア需要の急増も約0.4ポイントの押し上げに寄与しており、両者の影響がほぼ拮抗している。
2025年7月時点のコアPCEインフレ率は前年比**3.3%**。これはパンデミック期を除くと1990年代初頭以来の高水準であり、2023年以降で最も高い水準でもある。
「チップフレーション」が家電市場を直撃
背景にあるのは、大手テック企業によるAIインフラ整備競争だ。Microsoft、Google、Meta、Amazonがデータセンター向けにGPU、ビデオRAM、ストレージ、冷却部品を争って調達している。この需要集中が引き起こす価格上昇は「chipflation(チップフレーション)」と呼ばれ、データセンターにとどまらず、一般消費者向け電子機器にまで波及している。
この波及のメカニズムは次のように理解できる。大手テック企業が最先端チップや半導体部品を大量発注することで、製造キャパシティと原材料の多くが法人向けに優先配分される。その結果、スマートフォンやノートPCなど民生機器向けの供給が相対的に圧迫され、メーカーは部品調達コストの上昇を小売価格へ転嫁せざるを得なくなる。データセンター需要という「川上」の変化が、消費者市場という「川下」の価格を押し上げる構図だ。
具体的な動きとして記事が挙げているのは以下の通りだ:
- Apple:2025年6月にMacBookとiPadの価格を**15〜25%**引き上げ
- Lenovo、Dell、HP:相次いで値上げを実施
- スマートフォンやゲーム機メーカーも追随
ハードウェア価格のトレンドを数字で見ると、構造的な変化が際立つ。映像・情報処理機器の価格は2015〜2019年にかけて年率6.5%のペースで下落し続けていた。それが2025年7月時点では前年比12.2%の上昇に転じている。長年「デフレ品目」として物価を下押しする存在だった電子機器カテゴリが、今やインフレの押し上げ役に回っている点は、政策当局にとっても前例の少ない事態だ。
関税を取り除いてもインフレは収まらない
関税の影響を完全に除外してシミュレーションしても、コアPCEインフレ率はFedが目標とする2%を約1ポイント上回る水準に留まると、Minneapolis Fedは結論づけている。
一方で、衣料品・履物のインフレ率は直近の数字で**0.3%から3.5%**へと急騰しており、こちらは輸入コストが小売価格に転嫁された関税効果を明確に反映している。「AIハードウェア由来」と「関税由来」という、異なるメカニズムによるインフレ圧力が同時進行している格好だ。
Minneapolis Fedの分析が示唆するのは、AIハードウェアコストはもはや一時的な要因ではなく、インフレの構造的な構成要素になりつつあるという点だ。Fed(連邦準備制度理事会)にとっては、金融政策だけでは制御しにくい需要サイドの圧力と向き合うことになる。利上げによって企業のAIインフラ投資意欲を冷やすことは理論上可能だが、それは同時に景気全体を抑制するトレードオフを伴う。AI需要に根ざしたインフレへの対処は、従来の金融政策の枠組みでは一筋縄ではいかない問題として浮上しつつある。
詳細はAI hardware demand adds 0.4% to US inflationを参照していただきたい。