8月29日、TechSpotが「South Korea is giving its entire population free access to AI, no token limits」と題した記事を公開した。韓国政府が全国民を対象に生成AIサービスを無料・無制限で提供する「AI for All」プログラムを開始するという内容で、インフラ整備・予算規模・政策的背景まで詳しく報じている。
全国民にトークン制限なしの生成AI、2026年9月にベータ開始
韓国政府が推進する「AI for All」プログラムは、2026年9月にベータテストを開始し、年内に本格展開される予定だ。先週金曜日、ソウル市は本サービスを提供する3つの技術コンソーシアムを選定した。それぞれ韓国最大手の通信2社と、国内最大規模のコンシューマープラットフォームであるKakaoの運営会社が主導するグループで構成される。
Kakaoは月間アクティブユーザーが5,000万人を超えるメッセージング・エンターテインメントの複合プラットフォームであり、韓国のデジタルインフラとして広く浸透している。そのKakaoを軸に据えたコンソーシアム体制は、既存ユーザー基盤へのAI機能の迅速な展開を想定したものと読める。
このサービスの特徴は、単なるチャットボットではなく政府システムと直接連携する点だ。具体的には以下のような用途が想定されている。
- 一般市民:医療機関の予約、賃貸物件の検索、税務相談
- 中小企業:税額計算、政府支援制度の適格性確認
- 保護者:子ども向け教育コンテンツの推薦
ユーザーは政府支援プランのもと、トークン制限なしで無制限にアクセスできる。各コンソーシアムは独自のAIアプリを投入するほか、既存製品への生成AI機能追加も予定している。
インフラと予算:Nvidia B200を最大512枚投入
インフラ面では、政府が3コンソーシアムに対してNvidia B200チップを最大512枚分配し、運用コストの一部も負担する。B200はNvidiaの最新世代データセンター向けGPUであり、前世代のH100と比較して大規模言語モデルの推論処理において大幅な性能向上が見込まれる製品だ。国産AIサービスを実用レベルで展開するにあたり、最高水準のハードウェアを政府が直接手当てする形となる。ただし、科学ICT省はプログラムの総費用を公表していない。
予算規模でいえば、李在明政権は2026年のAI関連支出として約10兆ウォン(約72億ドル)を確保しており、これは前年の3倍にあたる。李在明氏は2025年の大統領選を経て政権を担っており、AI分野への大規模投資は政権発足当初からの重点政策として位置づけられている。
なぜ今、この政策か
背景として押さえておきたいのは、韓国の生成AI市場の現状だ。政府調査によれば、韓国人の約4分の1がすでにAIサービスに課金しており、2,000万人以上が何らかの無料生成AIツールを利用している。一方、PNCバンクが実施した調査ではアメリカで課金しているのは約2%にとどまるとされる。なお、PNCバンクはペンシルバニア州に本拠を置く大手金融機関であり、専業の技術調査機関ではない点は留意が必要だ。
これほどAI利用が進んでいる韓国でも、政府がわざわざ無料サービスを整備する理由は、米国・中国製AIへの依存低減と国内AI産業育成にある。現状、韓国市民が日常的に使うAIサービスの多くはOpenAIやGoogleといった米国勢、あるいは中国発のサービスに依存している。国産AIをデフォルトの選択肢にするため、プレミアム水準のサービスを無償で普及させ、利用習慣ごと切り替えを促す戦略だ。
政府はこの取り組みを「生成AIを国の基本的なデジタルインフラとして機能させるための実証」と位置づけており、単なる福祉的なサービス提供ではなく、国産AI産業の競争力底上げを狙った産業政策の色彩が強い。
課題:「実用タスクに耐えられるか」
成否のカギは、医療予約や税務申告といった日常の実務に使えるだけの信頼性をシステムが備えているかにある。政府連携サービスである以上、誤情報や処理エラーが行政手続きに影響するリスクは無視できない。また、3コンソーシアム間でサービス品質にばらつきが生じた場合、「全国民向け」というコンセプト自体が揺らぎかねない。
プログラムはあくまで実証段階として開始されるものであり、政府は利用者数の目標値も設定していない。ベータテストを経てどこまで完成度を高められるかが、本格展開の可否を左右する。
詳細はSouth Korea is giving its entire population free access to AI, no token limitsを参照していただきたい。