8月30日、The Decoderが「Sony and Warner sue Anthropic over "one of the largest and most blatant ongoing thefts of intellectual property in history"」と題した記事を公開した。ソニーミュージックとワーナーミュージックがAnthropicおよびCEO個人を被告として著作権侵害訴訟を起こしたこと、および賠償総額が10億ドルを超える可能性について詳しく報じている。
CEOと共同創業者が個人名義で被告に
ソニーミュージックパブリッシング、ワーナーミュージック、およびその他の音楽出版社グループが、カリフォルニア州北部地区連邦裁判所においてAnthropicを提訴した。
この訴訟の特徴は、法人としてのAnthropicだけでなく、CEO Dario Amodeiと共同創業者Benjamin Mannが個人被告として名指しされている点だ。48ページにわたる訴状には、「Amodei博士は、MannおよびAnthropicの他の従業員による著作権侵害を明示的に指示・承認・管理し、意図的に誘導した」と記されている。
原告側はこれを「史上最大かつ最も露骨な知的財産の継続的窃盗の一つ」と表現している。
賠償請求額は侵害作品1件あたり最大15万ドル、著作権管理情報の不法削除については1件の違反あたり最大2万5,000ドル。侵害された楽曲数次第では、賠償総額が10億ドルを大幅に超える計算になる。
Anthropicは同種の訴訟で大型和解の前例がある
この訴訟が深刻さを増す背景として、Anthropicが同種の問題ですでに巨額の和解に至った実績がある点は見逃せない。
2025年9月、Anthropicは書籍著者・出版社グループとの著作権訴訟において15億ドル(約2,200億円)の和解に合意した(※関連:当該訴訟に関する各報道)。これは米国著作権訴訟の和解としては史上最大規模とされる。なお、和解は敗訴を意味するものではないが、Anthropicが法廷での全面対決を選ばなかった事実は重い。そのケースで論点となったのは、著作権データをAI学習に使ったこと自体ではなく、違法なトレントダウンロードによってデータを取得したという調達方法の問題だった。
今回のソニー・ワーナーによる訴訟は、まったく同じ弱点を突いている。Anthropicは海賊版ライブラリであるLibGenおよびPiLiMiから少なくとも700万冊の書籍をトレント経由でダウンロードしたとされる。訴状はこのダウンロード行為自体を独立した著作権侵害と位置づけており、当該データが商用のClaudeモデルに実際に組み込まれたかどうかは問わないとしている。
音楽データについては、楽曲データベースサービスのMusixMatchやLyricFindといったライセンス済みプラットフォームから、出版社の同意を得ずに歌詞をスクレイピングしたとも主張されている。さらにBooks3、The Pile、Common Crawlといったデータセットへの言及や、使用済みの楽譜集をスキャン後に廃棄したという行為も訴状に含まれている。
「合成データ」は著作権回避の抜け穴になるか
この訴訟で技術的に興味深い論点が一つある。合成データ(synthetic data)を経由した著作権侵害の連鎖だ。
Anthropicは「LibGenやPiLiMiの書籍を商用Claudeモデルの学習に直接使用していない」と公式に否定している。しかし原告側はこの否定を巧みに回避する主張を展開している。
訴状によれば、Anthropicは海賊版データで学習した非商用モデルが生成した合成データを使って、商用Claudeモデルを学習させたとされる。さらに、その非商用モデルを商用モデルへの強化学習フィードバックに使用したとも主張している。「直接使っていない」という反論が、合成データという迂回路によって無効化される可能性を正面から問うものだ。
この点の技術的事実はディスカバリ(証拠開示手続き)を通じて明らかになる見込みだが、仮に原告の主張が認められれば、「海賊版データを直接の学習素材に使っていなければ問題ない」という業界の暗黙の前提が根底から崩れることになる。合成データを介した権利処理の連鎖責任という論点は、AI業界全体に波及しうる先例となりえる。
関連する判例として、2025年11月にドイツのミュンヘン地方裁判所が、著作権で保護された歌詞はモデルのパラメータ内でも複製物に該当し、チャットボットがその歌詞を出力することは不法な公開開示にあたると判断している(※関連:ミュンヘン地裁判決に関する各報道)。また同裁判所は、たとえユーザーが意図的に著作権コンテンツを引き出すようなプロンプトを使った場合でも、責任を負うのはユーザーではなくモデルの運営者だとした。今回の訴訟の合成データ論点と合わせて考えると、「学習データの出所」「出力コンテンツの性質」「運営者責任の所在」という三つの軸でAI企業への法的圧力が同時進行している構図が見えてくる。
今回の訴訟は、AI学習データの調達方法をめぐる法的リスクが経営トップ個人にまで及ぶことを示した点で、業界全体への警告となっている。書籍に続き音楽分野でも同種の訴訟が起きたことで、AI企業のデータ調達プロセスへの法的精査はさらに厳しくなるとみられる。
詳細はSony and Warner sue Anthropic over "one of the largest and most blatant ongoing thefts of intellectual property in history"を参照していただきたい。