8月29日、The Newsが「South Korea to offer free AI access to all 52 million citizens: What to know」と題した記事を公開した。韓国政府が国民5200万人全員に生成AIサービスを無償提供するという、世界的にも前例のない国家主導プロジェクトだ。単なる行政ポータルの拡充ではなく、Nvidia最新世代GPU 512基を国が直接調達し、医療・金融・教育をまたぐ自律型エージェントAIとして展開するという規模と設計の大胆さが、この取り組みを際立たせている。
Nvidia B200を512基投入、国家予算で調達するという異例の構造
韓国の科学ICT省(Ministry of Science and ICT)は、「AI for Everyone」プロジェクトに関して、6社の入札者の中から3つのコンソーシアムを選定したと発表した。政府はこの3グループに対し、合計512基のNvidia B200 GPUを提供する。
Nvidia B200はBlackwellアーキテクチャ世代の最新鋭データセンター向けGPUであり、大規模言語モデルの推論・学習用途で現在最高クラスの性能を持つ。民間企業が調達するにも高コストなこのリソースを国が一括購入し、サービス構築に当たる民間企業へ供与するという構造は、クラウドインフラの一部を実質的に国有化するものに等しい。
2027年からの全国サービス展開に向けた費用についても、国が財政支援する計画だ。スケジュールとしては、9月に3グループとの契約締結、その後ベータサービスを開始し、2025年末までに本格展開を目指す。
単なるチャットボットではなく「エージェント型AI」
このプロジェクトが従来の行政DX施策と一線を画す最大の理由は、提供するAIが単純な質問応答型のチャットボットではなく、エージェント型AI(Agentic AI)である点だ。
エージェント型AIとは、ユーザーの指示に対して計画立案から実行までを自律的に処理できるAIを指す。従来のチャットボットが「答えを返す」だけだったのに対し、エージェント型AIは「タスクを完了させる」ことを目指す。本プロジェクトでは、行政手続きのナビゲーションにとどまらず、以下の分野での活用が想定されている:
- 医療(health care)
- 金融(finance)
- 教育(education)
- 住宅(housing)
参加企業のひとつであるSK Telecomは、ユーザーのリクエストを「計画から実行まで」一貫して処理できる自律エージェントの開発を担当する予定だ。単一の会話の中で、情報の比較・手続きの評価・申請の完了まで一気通貫でガイドすることを目標としている。
AIを「公共インフラ」として整備する韓国の文脈
この取り組みは、突如として現れた政策ではない。韓国は2020年にデジタルニューディール政策を打ち出し、ポストコロナの経済回復策としてAI・データ・5Gへの大規模投資を国家戦略の柱に据えてきた。以降、AIスタートアップへの補助金拡充、国産LLM開発支援、GPU調達予算の確保といった施策を段階的に積み上げており、「AI for Everyone」はその延長線上に位置する。
つまり韓国政府にとってAIは、電気やインターネット回線と同様の社会インフラだという位置づけがすでに定着しており、今回のプロジェクトはそれを国民向けサービスとして具現化する段階に入ったといえる。
デジタル機器を持たない市民も対象に
アクセス手段として、Webに加えて電話・SMSにも対応する点は、高齢者やデジタルデバイドへの配慮として注目される。デジタルインターフェースを持たない層に対しても、AI音声通話で対応できる仕組みを整えることで、「全員に届ける」という方針を設計レベルで担保しようとしている。
韓国の高齢化率は上昇傾向にあり、スマートフォンやPCに不慣れな世代への包摂は、国家レベルのAI普及において避けられない課題だ。電話・SMSという枯れたチャネルを正面から採用した点は、使いやすさよりもリーチを優先した現実的な判断といえる。
国家がAI基盤を持つ意味
米国や中国が企業主導でAI覇権を競う一方、韓国は「国民全員が使える公共AI」というモデルを先行して実証しようとしている。国がGPUリソースを直接調達し、民間企業に提供してサービスを構築させるという今回の構造は、AI開発競争において国家の関与が強まるひとつの形を体現している。
韓国のこのアプローチが成功すれば、公共AIインフラの国際的なモデルケースとなり得る。逆に、エージェント型AIの自律性がもたらす誤動作・プライバシーリスク・サービス品質のばらつきといった課題をいかに制御するかが、今後の焦点になるだろう。
詳細はSouth Korea to offer free AI access to all 52 million citizens: What to knowを参照していただきたい。