8月27日、SiliconANGLEが「Enterprise AI moves closer to business value- SiliconANGLE」と題した記事を公開した。この記事では、エンタープライズAIが個人の生産性向上ツールに留まり、本来価値が生まれるべきコアビジネスプロセスへの適用が進んでいない現状について詳しく紹介されている。なお、本紹介記事は翌8月28日に執筆したものであり、元記事の公開日は8月27日である。
AIへの投資の57%が支出を上回るリターンを生み出せていない——この数字が示すのは、モデルの能力不足ではなく、「どこに・どのように実装するか」という問題だ。AIが本当に使われるべき場所——売上を生み出し、コストを削減し、イノベーションが起きるコアビジネスプロセス——にはまだ届いていない。
AIへの投資が「回収できていない」のはなぜか
AI技術の能力は向上し続けているにもかかわらず、投資対効果が伴わないケースが目立つ。Domino Data LabのCEO、Thomas Robinsonによれば、57%の組織が、AI支出を上回るリターンを生み出せていないという。Domino Data Labは、エンタープライズ向けのデータサイエンス・MLOpsプラットフォームを提供する企業で、製薬・金融・防衛など規制の厳しい業界への導入実績を持つ。
Robinsonが指摘する根本的な問題は、AIの適用先にある。
「ここ数年で見てきたAI活用の多くは、エンドユーザーのデスクトップ環境にツールを置くことに終始していた。つまり、メールの下書きやマーケティングコピーを書くためのデスクトップツールだ。しかし、そこは企業が売上を生み出したり失ったりする場所ではないし、イノベーションを起こす場所でも、コスト削減を進める場所でもない。」
要するに、AIが当たっているのは「業務の周辺」であり、「業務の中心」ではないというわけだ。製薬研究、金融サービス、国家安全保障といった、誤った判断が実際のリスクに直結する領域では、この乖離が特に大きい。
エンタープライズAIの市場規模は急拡大が続いており、こうした「投資対効果の乖離」は業界全体で共通の課題となりつつある。McKinseyやGartnerといった調査機関も繰り返し「AIのビジネス価値実現には実装・変革管理が鍵」と指摘しており、本記事のRobinsonの見立てはその文脈と重なる。
「コスト削減」発想がROIの上限を決めてしまう
Robinsonが強調するもう一つのポイントは、AIプロジェクトの目標設定の問題だ。
「私がよく言うのは、コスト削減で達成できる最大値はコストの100%だということだ。コスト削減だけを目的に設定した時点で、得られる上限が決まってしまう。」
一方、リーダーシップが機能している顧客は、将来の製品開発や増収という観点でAIを評価しているという。1年後から5年後を見据えた新製品開発に、AIがどう貢献できるかを問う組織が、実際の成果を引き出しているとRobinsonは述べる。
つまり、KPIを「採用シート数」「トークン消費量」「コスト削減額」で測っている限り、支出管理の指標にしかならず、事業価値の指標にはなり得ない。
ガバナンスなきエージェントAIが広がっている
もう一つの懸念が、エージェントAI(自律的にタスクを実行するAIシステム)のガバナンスの欠如だ。約41%の組織が、適切なガバナンス体制を持たないままエージェントAIのパイロットまたはスケールを進めているとRobinsonは指摘する。
Domino Data Labのアプローチは3層構造だ。
- ポリシーエンジン:プロジェクトの開始から納品まで一貫してゲートを設ける
- 継続的な監視・トレーシング:本番環境での動作を常時追跡する
- アカウンタブルな人間:最終的な判断責任を負う人間を置く
Robinsonは「判断はハルシネーション(AIが事実でない情報を自信を持って出力する現象)より優れている」と述べ、「reasoning model」と呼ばれるモデルであっても、まだ人間の判断を代替できる段階には至っていないとの見方を示した。
価値の源泉はモデルからインテグレーションへ移行する
Robinsonは、エンタープライズAIの価値がモデル自体から、インテグレーション・ガバナンス・ワークフローへと移行しつつあると見る。
その証拠として挙げるのが、主要なモデルプロバイダーが「フォワードデプロイドエンジニアリング(Forward Deployed Engineering)」部門——顧客先に常駐し、実装・定着化を直接担う専門チーム——を自社内に立ち上げている動向だ。モデルを売るだけでなく、現場に人を送り込んで実装まで責任を持つ体制を整えているという意味であり、Palantirが同モデルで成長した事例がよく知られている。
「彼らは『AIが良くなったからギャップが埋まる』とは言っていない。実装を担う人材で会社を埋めている。これは、腕まくりをして、優秀な人材を事業に送り込み、デジタルトランスフォーメーションを推進するというストーリーを裏付けている。」
モデルのベンダー自身が「モデルだけでは足りない」と認識し、実装力で差別化しようとしている構図は、エンタープライズAI導入を検討・推進する立場には示唆が大きい。
詳細はEnterprise AI moves closer to business value- SiliconANGLEを参照していただきたい。