8月27日、TechSpotが「For the first time, AI guides surgeons through a brain tumor operation」と題した記事を公開した。AIがリアルタイムで外科医を誘導しながら脳腫瘍摘出手術を成功させた世界初の事例について詳しく紹介している。
「1mmのミスが失明・脳卒中・死につながる」手術にAIを投入
2026年5月、ロンドンのNational Hospital for Neurology and Neurosurgery(NHNN)で、48歳の患者Rhys Hibbert氏の脳腫瘍摘出手術が行われた。Hibbert氏は下垂体(pituitary gland)に11mmの腫瘍を抱えており、視力を制御する神経や主要血管のすぐ近くという、極めて余裕のない場所に位置していた。担当医らによれば、わずか1mmのミスが失明・脳卒中・死亡につながりうるという状況だった。
この手術において初めて実戦投入されたのが、UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)のSophia Bano准教授が開発を主導したAIシステムだ。システムは手術中のライブ映像をリアルタイム解析し、保護すべき神経・血管・組織をカラーコーディングして外科医チームに提示した。手術映像をリアルタイムで処理しながら、解剖学的構造・手術器具・組織の相互作用を同時に識別する仕組みになっている。
このシステム自体は同病院で研究目的にすでに使われていたが、実際の患者への手術中の使用はこれが初めてだった。
数百本の手術動画で訓練されたモデル
Bano准教授によれば、このAIは数百本の手術動画から学習しており、多様な症例への対応力を持たせている。手術支援AIの開発において、学習データの質と量が最大の課題になることが多いが、同チームは実際の神経外科手術映像を継続的に収集・活用してきた。
手術はNational Institute for Health and Care Research(NIHR)の資金援助を受けた臨床試験の一環として実施された。同機関の科学ディレクターMike Lewis氏は「この手術は、高度なAIが外科医を支援し、患者ケアを向上させられることを示した」と述べた。
患者は術後1週間以内に歩行・復職
元記事によれば、Hibbert氏はある時点で診断を受け、当初は手術なしで管理されていたが、その後に重篤なホルモン異常と視力悪化が進行。手術を受けなければ失明していた可能性があると医師らは説明している。
手術後、Hibbert氏は麻酔から覚めた際に「部屋の中のものがすべてはっきり見えた」とThe Guardianに語った。術後1週間以内に眼鏡も杖も使わずに歩行できるようになり、カスタマーサービスマネージャーとして職場に復帰した。「周囲360度のパノラマビューで見えているような感覚だ」と述べている。
なお、NHNNは1859年創設の世界初の神経外科専門病院でもある。Hibbert氏は「世界初の神経外科専門病院が、世界初のAI支援神経外科手術を行った病院にもなるのは、非常に相応しいことだと思う」とコメントしている。
医療AIの「研究から実用」への転換点
手術支援AIはこれまで、画像診断(術前のMRI・CT解析)や手術計画の補助での活用が中心だった。たとえばda Vinci手術システムのようなロボット支援手術では、術者の動作精度を高める仕組みが実用化されているが、手術の進行中に解剖学的構造をリアルタイムで識別・提示するAIの臨床適用は、これまで実現されていなかった。
今回のケースは、手術の進行中にリアルタイムで外科医の判断を支援するという段階に踏み込んだ点で、医療AIの実用化における一つの節目といえる。カラーコーディングによる解剖学的構造の可視化という手法は、シンプルながら外科医の認知負荷を直接軽減するアプローチだ。
現時点では臨床試験の枠組みの中での実施であり、広く普及した技術ではない。元記事では次フェーズの臨床試験規模や他の手術領域への展開計画について明示的な言及はないが、神経外科を超えた高精度手術領域への応用可能性は今後の注目点となるだろう。
詳細はFor the first time, AI guides surgeons through a brain tumor operationを参照していただきたい。