8月28日、MarkTechPostが「Google AI Releases Gemini 3.5 Transcribe: A Speech-to-Text Model Reporting 2.6% Average WER Across 85+ Languages」と題した記事を公開した。Googleが新たにリリースした音声認識モデル「Gemini 3.5 Transcribe」は、非ストリーミング時のWER(Word Error Rate・認識誤り率)が**2.6%**という数字を記録している。OpenAIのWhisper large-v3が英語単独の主要ベンチマークで3〜5%台のWERを示すケースが多いことと比較すると、この数字の意味は小さくない。85言語以上への自動対応、リアルタイムストリーミングとバッチ処理の両立、そして用途別に分かれた2エンドポイント設計と、アーキテクチャ面でも従来モデルとは異なるアプローチをとっている。
WER 2.6%、85言語対応の音声認識モデル
Googleが音声認識モデル「Gemini 3.5 Transcribe」を公開した。リアルタイムの音声ストリーミングと録音済みファイルの両方に対応する。
性能面での数字は以下の通り(元記事によればArtificial Analysisによる測定):
- 非ストリーミング(バッチ):WER 2.6%
- ストリーミング:WER 4.0%
- 多言語ベンチマーク(FLEURS)での非ストリーミング:5.04%、ストリーミング:5.50%
- 従来モデルChirp 3比で、最終トランスクリプション生成までの時間が70%短縮
WER(Word Error Rate)とは認識誤り率のことで、数値が低いほど精度が高い。85言語以上に自動対応し、文中での言語切り替え(コードスイッチング)も設定なしで処理する。
タイトルで提起したWhisperとの比較について補足しておく。OpenAIのWhisper large-v3は多言語対応・オープンウェイト公開という点で広く使われているが、Artificial Analysisの計測では英語・多言語ともにGemini 3.5 TranscribeのWERがWhisperを下回ると報告されている(元記事参照)。ただしGemini 3.5 Transcribeはセルフホスト不可のマネージドサービスのみの提供であり、Whisperとは利用形態が根本的に異なる。コスト・プライバシー・レイテンシの要件次第で、選択肢としてどちらが適切かは変わる点には留意が必要だ。
「1つのAPI」ではなく「2つの別製品」として設計されている
今回の最大の設計上の特徴は、エンドポイントが用途別に2つに分かれている点だ。
| エンドポイント | API | 特徴 |
|---|---|---|
gemini-3.5-transcribe |
Transcribe API | 録音済みファイル向け。話者分離・単語タイムスタンプ対応 |
gemini-3.5-transcribe-live |
Live API | 双方向ストリーミング向け。サブ秒レイテンシ |
この2つは機能セット・制限・価格が異なる。「とりあえず両方使える」ではなく、用途に応じてどちらを使うかを設計段階で決める必要がある。
Live APIの仕様:
- 音声フォーマットは16bit PCM / 16kHz / モノラル、100msチャンク単位
- 発話中に暫定テキストを返す
interim_input_transcriptionと、ターン確定後のinput_transcriptionを使い分け - 自動・ハイブリッド・手動の音声アクティビティ検出(VAD)に対応
- エフェメラルトークンによりモバイル・Webクライアントからもセキュアにストリーミング可能
- 制限:連続セッション10分まで、話者分離・単語タイムスタンプは非対応
Transcribe APIの仕様:
- 話者分離(ダイアライゼーション)、単語レベルのタイムスタンプ(開始・終了オフセット)に対応
- カスタム語彙登録:最大1,000語(精度が高いのは100語以下)
- 通常リクエスト:最大1時間のファイルを処理可能
- 話者分離またはタイムスタンプ有効時は最大30分に制限
「verbatim」か「smart」か——見落としがちなトレードオフ
両エンドポイント共通の機能として、出力モードの選択がある。
verbatim(デフォルト):フィラー(「えー」「あのー」)、繰り返し、言い直しをすべて保持する- **
smart**:言い淀みを除去し、自己修正をインラインで解決し、構造化フォーマットを適用する
公式ドキュメントに掲載されている例がわかりやすい。
"Um, so for the meeting, I think we should, uh, invite Alice and, wait no, Bob and Carol."
verbatimはこの発言をそのまま残す。smartが返すのは以下だ。
"For the meeting, I think we should invite Bob and Carol."
ただし、**smartモードは単語タイムスタンプや話者分離と同時に使えない**。読みやすい要約と監査可能な逐語録は、別々のAPIコールとして設計する必要がある。
料金・制約・エコシステム
オープンウェイトの公開はなく、セルフホストも不可。マネージドサービスのみの提供だ。
- 個人・スタートアップ:Google AI Studioの無料枠から利用可能
- 有料プランではコンテンツがGoogleの製品改善に使われないことが保証される
- エンタープライズ向けはGemini Enterprise Agent Platform経由でプロビジョニングスループットやコンプライアンス制御が追加される
- 料金:バッチ約$0.005/分、ライブ約$0.009/分(元記事記載の数値。詳細は公式料金ページで最新情報を確認されたい)
エコシステム連携として、LiveKit、Pipecat、Agora、VercelなどがすでにLive APIに対応済みだ。コンシューマー向けではmacOS版Geminiアプリにもこのモデルがすでに適用されており、Chromeへの対応は近日予定とされている。
現在は開発者・エンタープライズともパブリックプレビュー段階のため、本番運用へのコミットは状況を見ながら判断する必要がある。
詳細はGoogle AI Releases Gemini 3.5 Transcribe: A Speech-to-Text Model Reporting 2.6% Average WER Across 85+ Languagesを参照していただきたい。