8月29日、Techstrong.AIが「Anthropic Explored $7 Billion Acquisition of AI Chip Startup MatX: Report」と題した記事を公開した。Anthropicが AIチップスタートアップMatXの70億ドル規模の買収を検討していたというReutersの報道を伝えるもので、交渉の背景にあったのは「チップそのもの」ではなく、GoogleのTPUを設計してきたエンジニアたちを取り込む狙いだったとされている。
買収交渉からパートナーシップへ
Reutersの報道によると、Anthropicは近年、AIチップスタートアップMatXの買収を約70億ドル規模で検討していた。ただし、この交渉は現在頓挫しており、両社は完全買収ではなく、Anthropicの社内ハードウェア能力を強化することを目的とした戦略的提携の方向へ軸足を移している。
AnthropicはMatXへのコメントを拒否し、MatXも取材には応答しなかった。買収条件の詳細はいまだ正式に確認されていない。
MatXとは何者か
MatXは元GoogleエンジニアのReiner PopeとMike Gunterが共同創業したスタートアップだ。
- Pope:Googleでの機械学習効率化およびPaLMモデルの開発に携わった人物
- Gunter:GoogleのカスタムAIチップ「**TPU(Tensor Processing Unit)** 」プログラムの開発をリードした人物
MatXの専門領域は、**LLM(大規模言語モデル)** の推論・学習を高速化するために設計されたカスタムプロセッサの開発だ。GPUに代わる、LLM特化型シリコンというニッチを狙っている。
買収交渉が終了した現在、MatXは約40億ドルの評価額を目標に新たなベンチャー資金調達ラウンドを進めているという。買収交渉時の想定70億ドルから大きく下がっており、交渉がどの程度進んでいたかを示す一つの指標になっている。
なぜAnthropicは独自チップを欲しがるのか
現時点でAnthropicは、NVIDIA のGPUおよびGoogleのTPUに依存してClaudeファミリーのモデルを訓練・推論している。元記事によると、カスタムシリコン開発には以下のようなメリットが挙げられている。
- パフォーマンス最適化:自社ソフトウェアのワークロードに合わせてチップアーキテクチャを設計できる
- 消費電力の削減:汎用GPUと比べ、エネルギー効率を大幅に高められる可能性がある
- 長期コスト削減:外部チップへの依存を減らし、運用コストを抑えられる
- サプライチェーンリスクの回避:商用GPUをめぐる市場競争や供給不足の影響を受けにくくなる
同様の戦略はすでに他のビッグテックも実行している。Googleは自社TPUを長年運用し、Metaも独自AIアクセラレータ(MTIA)を開発中だ。
人材獲得こそが本質
Anthropicは現在も外部チップサプライヤーとの取引を継続しながら、社内シリコン開発チームの立ち上げに向けて半導体エンジニアを積極採用していると報じられている。
冒頭で触れたとおり、今回の買収交渉が示しているのは、最終的に70億ドルを出してでも欲しかったのは「チップ設計の製造ライン」ではなく、TPUを設計できる人材そのものだという点だ。Pope・Gunterのような、LLM特化型ハードウェアをゼロから設計できるエンジニアは市場に極めて少ない。買収額の大部分は実質的なアクハイア(人材獲得型買収) のプレミアムであったと見ることができる。
詳細はAnthropic Explored $7 Billion Acquisition of AI Chip Startup MatX: Reportを参照していただきたい。