8月26日、The Next Webが「The fix for AI's power problem is turning it down」と題した記事を公開した。データセンターの消費電力を需給に応じてソフトウェア制御で削減するスタートアップ「Emerald AI」が1億5,000万ドルのシリーズAを調達し、評価額10億5,000万ドル(ユニコーン)に達したことを詳しく紹介している。
AIのボトルネックは「電力」、解決策は「絞る」こと
Emerald AIのアプローチは一言でいえば、AIの電力問題をAI自身のワークロード管理で解くというものだ。
創業からわずか2年のこの企業が開発する「Emerald Conductor」は、データセンターが実行しているジョブを「遅延許容度」でソートし、電力グリッドがひっ迫したタイミングで待てるジョブを遅延・一時停止・移動させる。
ここが他の省エネソフトと異なる点だ。多くの効率化ソフトは冷却設備を調整するが、計算処理そのものには手をつけない。Emerald Conductorはワークロード自体を操作する。
フィールドテストで示された数字
最も具体的な成果として公開されているのは、2025年5月にフェニックスで行われたテストだ。
- 対象:256GPU構成のNvidiaクラスター
- 結果:平均ベースロードから25%の消費電力削減を3時間維持
- 33回の実験で212ジョブを管理し、事前に設定したサービスティアを超過するジョブはゼロ
- 電力予測の誤差は実験電力の平均に対して4.52%
ただし、このテストにはいくつかの前提がある。Implicatorのマーカス・シューラーは独自のレビュー記事で次の点を指摘している。研究はEmerald関係者と協力企業が執筆したものであり、対象は事前にプロファイリング済みの単一クラスターに限られる。遅延・停止の対象はバッチ学習とファインチューニングで、リアルタイム推論・ストリーミング・モデルサービングには手をつけていない。単一クラスターを超えた評価には、全サイトのテレメトリを備えた大規模展開が必要だと研究者自身も認めている。
なぜ電力会社が乗ってくるのか
シリコンバレーの約20平方マイルに55のデータセンターを抱えるSilicon Valley Powerは、NvidiaやIntelも含む最もエネルギー集約的なサービスエリアの一つだ。同社ディレクターのニコラス・プロコスはニューヨーク・タイムズに対し、かつてあった余剰容量はもう残っていないと語る。選択肢は「インフラを増強するか、創造的な解決策を見つけるか」の二つだけだ。
同社はEmeraldとの「Flexible Load Interconnection Program(柔軟負荷相互接続プログラム)」を立ち上げ、検証済みの調整可能な柔軟性を提供するデータセンターに対して、グリッドへの拡張アクセスを認める仕組みを導入した。グリッド接続の優先権が、データセンター側の参加インセンティブになっている。
商業デモはアリゾナ、イリノイ、バージニア、オレゴン、ロンドンの5拠点で実施済み。Nvidia、Oracle、Nebius、研究機関EPRIおよびNational Gridが協力している。
「スイッチを誰が握るか」という未解決問題
最大の障壁は技術ではなく、権限の所在だ。
Silicon Valley Powerの最高執行責任者クリス・カーウィックは、迅速なグリッド接続の対価として「負荷側ブレーカーの完全制御権は交渉の余地がない」と述べている。一方でデータセンターオペレーターは、突然のシャットダウンが高価なハードウェアを損傷する可能性を理由に、この権限の譲渡に抵抗している。
2026年6月末時点で、電力会社とデータセンター間の標準的な拘束力のある合意は存在しないとシューラーは報告する。ビルクレジット(電力料金の割引)は魅力に乏しく、より強い誘因となりうるのはグリッドへの優先接続権だ。
Schneider ElectricでAIとデータセンターの主席アドボケートを務めるスティーブン・カルリーニは「データセンターはワークロードを遅らせたり絞ったりシフトしたりできる。ただ、そうしたいかどうかは別の話だ」と率直に述べている。
「排出量が減る」は自動的には成立しない
電力需要をオフピーク時間帯に移すことは、その時間帯に化石燃料が限界電源(マージナル電源)として稼働している場合、排出量を増やす可能性がある。Green Software Foundationのポリシーレビューが2025年3月にこの点を指摘している(※Green Software Foundationは、ソフトウェアの炭素排出削減を推進する業界団体で、MicrosoftやGoogleなどが参加している)。同レビューはまた、現場での実証実験のほとんどが2年未満の新しいもので、遅延しやすいワークロードに偏っていることも指摘している。
投資家が賭けているもの
出資者の顔ぶれがこのビジネスの文脈を物語っている。Nvidia、Siemens、RWE、GE Vernova、Aramco Ventures、Samsung Ventures、Salesforce Ventures、そしてCIA出資のIn-Q-Telが名を連ねる。Fortune Global 500企業12社が株式を保有し、戦略諮問委員会にも参加している。
Energize Capitalのマネージングパートナー、ジョン・タフは「AIの制約はもはやチップでも資本でもない。電力だ。そしてソフトウェアが最速の解決策だ」と語る。
同社の試算では、このアプローチを広く展開することで既存の米国グリッドに100ギガワット超の未活用容量を解放できるとしている。新たな発電・送電インフラを建設すれば10年単位の時間がかかる。IEAによれば、2030年までの米国電力需要増加のほぼ半分をデータセンターが占める見込みだ。
「グリッドに繋がり続ける」という政治的賭け
データセンターへの反発は政治問題にまで発展している。テキサス州ではグリッド接続を付与する前に審査を行うようになり、グレッグ・アボット知事は業界が自分たちで墓穴を掘ったと発言している。Amazonはテキサスにグリッドへまったくつながない施設を建設中だ。
Emerald AIの創業者で元バイデン政権の気候政策担当バルン・シバラムは逆の方向を目指す。データセンターをグリッドフレキシブルな存在にすることで「悪役から英雄へ」転換させると、彼はニューヨーク・タイムズに語った。
それが実現するかどうかは、1億5,000万ドルの調達では決まらない。オペレーターが電力会社にマシンを絞る権限を渡すかどうかにかかっている。
詳細はThe fix for AI's power problem is turning it downを参照していただきたい。