8月25日、Matthias Bastianが「Taiwanese cybersecurity firm warns that AI tools have more than doubled Chinese state-backed cyberattacks」と題した記事を公開した。台湾のサイバーセキュリティ企業TeamT5の調査によれば、中国の国家支援ハッキンググループはAIツールをマルウェア開発・偵察・横断移動に積極活用しており、攻撃件数はAI導入前と比較して2倍以上に増加しているという。開発者が日常的に使うツールが攻撃インフラとして転用されているという事実は、セキュリティ設計の前提を根本から問い直す契機となる。
AIがサイバー攻撃のインフラになりつつある
TeamT5は台湾に拠点を置く脅威インテリジェンス専門のサイバーセキュリティ企業で、中国・北朝鮮・ロシアなど国家支援の脅威アクターを長年追跡してきた実績を持つ。台湾は中国からのサイバー攻撃の最前線に位置しており、同社の調査は地政学的な緊張と切り離せない文脈の上に成り立っている。今回の報告は、そうした地の利を持つ企業だからこそ得られた、具体性の高い観測結果だ。
特に注目されるのがDeepSeekの利用だ。TeamT5のチーフアナリストであるCharles Liは、DeepSeekが中国のハッカーに特に好まれている理由を「比較的高性能であり、サイバー利用に対するガードレールが非常に低い」と説明している。
DeepSeekは2025年初頭に登場し、Meta LlamaなどのオープンウェイトモデルやOpenAIのGPT-4oに匹敵するとされるベンチマーク結果で注目を集めた。低コストかつオープンな性質から悪用される懸念は当初から指摘されており、今回の報告はその懸念が実態として顕在化したことを示している。
具体的なグループと手口
報告では複数のハッキンググループの手口が具体的に示されている。
- Grimfengxi:DeepSeekを使ってエクスプロイトコード(脆弱性を突く攻撃コード)を生成
- Huapi:DeepSeekと見られる中国製モデルを利用
- Teleboyi:DeepSeekのプラットフォームを使ってIPアドレスを収集し、ドメインをマッピング
- Slime22:AnthropicのAIコーディングツールClaude Codeを使用し、台湾企業のシステム内を横断移動(ラテラルムーブメント)
ここで明確にしておきたいのは、Claude Codeが「攻撃インフラ」として悪用されたのはあくまで攻撃者による転用であり、Anthropic自体が攻撃に加担しているわけではない。正規のコーディング支援ツールが、攻撃者の侵入後活動を自動化する用途に流用されたという事実として受け止めるべきだ。
ChatGPTも少なくとも1件の事例で使われている。セキュリティ企業CyCraft(台湾発のAI駆動型セキュリティ企業で、エンタープライズ向けのEDR・SOCサービスを提供する)は、ハッカーがChatGPTを利用してSignalデータベースの復号モジュールを構築した証拠を発見したと報告している。
オープンモデルの「サイバー能力」が急伸
別の調査も状況の深刻さを裏付けている。英国AI安全研究所(UK AI Safety Institute、現在はAISI)が公開した研究によると、オープンウェイトモデルのサイバー攻撃能力はここ数ヶ月で急上昇している。AISIはAIシステムの安全性評価を専門とする英国政府機関であり、フロンティアモデルのサイバー悪用リスクを継続的に評価している(※具体的な報告書の公開日は元記事に記載がないため、詳細は元記事およびAISIの公式サイトを参照されたい)。
ただし、完全自律型の攻撃という点では、西側の最先端モデル(Western frontier models)にはまだ優位性があるとされる。元記事によれば、Anthropicが開発した「Claude Mythos」と呼ばれるモデル(※元記事中の記述に基づく名称であり、Anthropicの公式リリースとの対応関係については元記事を直接確認されたい)は、防御の弱いエンタープライズネットワークをエンドツーエンドで自律的に侵害できる能力を持つと報告されており、現時点のオープンモデルはその水準には達していないという。
エンジニアが押さえるべきポイント
この報告が示す構造的な問題は、AIが攻撃者の「参入コスト」を大幅に引き下げたという点だ。従来、エクスプロイトコードの作成やネットワークの偵察・横断移動には高度な専門知識と多大な時間が必要だったが、AIツールがその工程の一部を代替し始めている。攻撃の「量」が増加しているのは、そのコスト構造の変化を直接反映している。
台湾という地政学的な最前線で観測されたこの実態は、日本を含むアジア太平洋地域の企業にとっても他人事ではない。DeepSeekやClaude Codeといった、開発者が日常業務で利用するツールが攻撃インフラとして転用されているという事実は、ツール選定やアクセス制御・ログ監視のポリシーを見直す具体的な根拠となり得る。
詳細はTaiwanese cybersecurity firm warns that AI tools have more than doubled Chinese state-backed cyberattacksを参照していただきたい。