8月25日、Futurismが「Nobody Wants Anthropic's Best AI Model Anymore Now That There Are Way Cheaper Alternatives」と題した記事を公開した。Anthropicの最上位・最高価格モデルへの企業支出が頭打ちとなり、より安価なモデルへの移行が進んでいる実態について詳しく紹介されている。
7万社の支出データが示す「フラッグシップ離れ」
決済・経費管理サービスを提供するRamp(米国の法人向けFintech企業)が、取引先約7万社から収集した支出データによると、Anthropicの最上位・最高価格モデルへの支出は、Anthropic製AIツール全体の支出に占める割合が**わずか11%**にとどまっている。この数字はすでに頭打ちの状態だと、Financial Timesが報じた。
企業ユーザーが取っている戦略は明確だ。複雑なタスクにはAnthropicの最上位モデル、それ以外はAnthropicの旧モデルや中国勢のオープンウェイトモデル(DeepSeekなど、モデルの重みが公開され低コストで利用できるモデル)で済ませるという使い分けである。
「フロンティア一択」の時代は終わった
Anthropicに10億ドルを出資しているベンチャーキャピタルAccelのパートナー、Miles Clementsはこう語った。
「ほとんどの企業はフロンティアで動かす必要はない。顧客がフロンティアモデルだけを使っていた時期は、持続可能な状態ではなかった」
AccelはAnthropicへの主要投資家の一つであり、同社の成長を間近で観察できる立場にある。その当事者がフロンティアモデル一択の限界を認めている点は重みがある。
この構造変化が続けば、「より大きく、より複雑なモデルを作り続ける」という大手AIラボのビジネスモデル自体が揺らぐ、とFTは指摘する。
最上位モデルの「不調」と競合の追い上げ
Anthropicの最上位モデルの出だしには逆風があった。「自律的にサイバー攻撃を実行できる」という報道がリリース時の話題を覆い、トランプ政権が一時、外国顧客へのアクセス提供を停止するよう命じた(後に解除)。政治的混乱が収まれば採用が加速するという期待もあったが、それは実現していない。
Anthropicの年換算収益(ARR:現在の収益ペースを1年分に換算した指標)は7月時点で650億ドルに達したが、強気な投資家が想定していた800億ドルには及んでいない。
一方でOpenAIが猛追している。元記事によれば、一時期Anthropicに市場シェアで大きく後れを取っていたOpenAIだが、Anthropicの最上位モデルより大幅に安価な新モデルが売上を押し上げ、年換算収益は400億ドルまで急回復したとされる。コストを重視する企業にとって、価格競争力のあるモデルは選ばれやすい。
「補完的なモデル」として見れば悪い話ではない
最上位モデルへの支出が頭打ちという数字を、肯定的に解釈する声もある。Google DeepMindのAGI経済学ディレクター、Alex Imasは次のように述べた。
「このグラフの正しい読み方は、『最上位モデルは他のモデルと組み合わせて使うことで全体の収益を底上げしている』ということだ。単体への支出が下がっても、補完的な役割を果たしていれば価値は残る」
つまり「最上位モデルへの支出比率の低下=フラッグシップの失敗」と単純に結論づけるのは早計であり、エコシステム全体での役割分担が成立しているという見方も成り立つ。
先行き予測は「ほぼ不可能」
RampのチーフエコノミストAra Kharazianは予測の難しさをこう表現した。
「過去のトレンドを延長すればAnthropicが市場を制するはずだった。しかしOpenAIの新モデルが想定以上に優秀で、Anthropicの最上位モデルが期待を下回ったため、逆の展開になっている」
Anthropicは現在、数兆ドル規模とされるIPO(新規株式公開)の準備を進めており、フラッグシップモデルの採用が伸び悩んでいるという事実はその評価に影を落とす可能性がある。「フロンティアモデルの価値をいかに市場に証明するか」は、Anthropicにとって上場前の重要な課題となっている。
※編集部の考察:今回のデータが示すのは、AIモデル市場が「最高性能を追う競争」から「コストと性能のバランスを最適化する競争」へ移行しつつあるという構造変化だ。フロンティアモデルの開発コストが膨張し続ける中、企業ユーザーが合理的な使い分けに移行するのは自然な流れともいえる。この傾向が続くなら、大手AIラボのビジネスモデル設計そのものが問われる局面が来るかもしれない。
詳細はNobody Wants Anthropic's Best AI Model Anymore Now That There Are Way Cheaper Alternativesを参照していただきたい。