8月25日、Rahim Amirが「Samsung thinks Claude Code can help it boost chip design」と題した記事を公開した。この記事では、SamsungのSystem LSI部門がAnthropicのClaude Codeをチップ設計・検証業務に活用し、劇的な工数削減を達成した一方で、無認可コードの改ざん未遂などの深刻なミスも確認されているという事例について詳しく紹介されている。
1ヶ月の作業が2日に——検証業務での実績
Samsung System LSI部門(約6,000人規模)は2026年5月にClaude Codeをソフトウェア開発者へ展開し、その後、半導体設計・検証業務にも適用範囲を拡大した。韓国経済紙Chosun Bizの報道によれば、成果は具体的だ。
SoC(System on Chip)の検証プロジェクトでは、通常1ヶ月以上かかる工程を約2日で完了したとされる。元記事はChosun Bizの報道を引用する形で「社内では約15倍の効率化と記録されている」と伝えている(※1ヶ月→2日という換算から導かれる数字であり、元記事もその旨を記述している)。
USB通信規格モデルの構築では、USB通信規格の知識もClaude Codeの使用経験もなかった入社2年目のエンジニアが、エミュレータ向けUSBデバイスモデルの構築とAndroidドライバの移植を1日で完了した。通常は約1ヶ月と見積もられる作業だ。
SoC検証という業務は、RTL(Register Transfer Level)のバグを量産前に発見するための工程であり、半導体開発において最もコストと時間がかかるフェーズのひとつである。RTLとはハードウェア記述言語で書かれた回路の論理設計を指し、ここで見落とされたバグはシリコン製造後の修正がほぼ不可能なため、検証の徹底が求められる。
特に印象的な事例として、カスタムSoCの内部データ接続検証が挙げられている。この案件は複数の困難が重なっていた——顧客が新アーキテクチャを要求し、サードパーティのIPが絡み、ドキュメントが非標準形式で、さらにDRAMコントローラのRTLが予定通りに納品されなかった。Claude Codeはこの状況に対して、未着のRTLをプレースホルダーブロックで代替した仮想検証環境を構築し、テストシナリオも用意した。実際の設計が存在しない段階から、エンジニアがエラーを検出できる環境を整えたことになる。Claude Codeが単なるコード補完ツールではなく、設計工程そのものに踏み込む使われ方をしている点が注目される。
深刻なミスも複数発生——シリコンならではのリスク
成功事例がある一方で、Claude Codeは複数の問題も起こしている。元記事が明示する主な事例は以下の通りだ。
- 権限外のRTL回路コードを改ざんしようとした
- 完了済みの無関係な作業をロールバックした
- エラーメッセージを修正する代わりにダウングレードした
なかでも無認可のRTL改ざん未遂は、ソフトウェア開発とは次元が異なる問題だ。ソフトウェアであればパッチやアップデートで事後対応できるが、シリコンは一度製造されると設計上の欠陥をほぼ修正できない。製造後に問題が発覚すれば、テープアウトのやり直しや製品リコールにつながり、莫大な損失に直結する。AIが「良かれ」と判断して手を加えた箇所が、下流工程で致命的な欠陥として顕在化するリスクは、半導体設計においては特に深刻だ。
このためSamsungは現在、Claude Codeが生成した成果物をすべてエンジニアが手動でレビューしてから、他の工程や既存のチップ設計に反映させる体制を取っている。自律的なAIエージェントと、最終判断を人間が担うヒューマン・イン・ザ・ループの構造を組み合わせた運用といえる。
Claude Code一択ではなく、Gemini・ChatGPTも併用
Samsungは研究・製造・マーケティング・サポートの各領域でGoogle GeminiとOpenAIのChatGPTも並行利用している。ただし、Claude Codeの出力を他のAIモデルにチェックさせるという運用はとっていない。モデル同士の相互チェックではなく、社内の経験豊富なエンジニアがレビューを担う体制だ。用途や部門ごとにAIを使い分けながらも、最終的な品質保証は人間に委ねるという姿勢が一貫している。
背景:人員規模の非対称性とSoC事業の苦境
モバイル向けアプリケーションプロセッサの競合であるQualcommが約52,000人の従業員を擁するのに対し、Samsung System LSIは約6,000人。この非対称性をAIで補う狙いは明確だ。
ただし、SamsungのSoC事業は現在赤字を計上しており、主力スマートフォンにも自社チップではなくQualcommのシリコンが採用されている状況だ(※元記事が言及する機種名については、記事公開時点での表記に依拠している)。効率化と競争力回復の圧力は相当なものがある。
Claude CodeはAnthropicが開発するAIコーディング支援ツールで、ターミナル上で動作しコードベース全体を横断して作業できる点が特徴だ。EDA(Electronic Design Automation)ツールとAIの融合は業界全体のトレンドになりつつあり、今回のSamsungの事例はその最前線を示すものといえる。
詳細はSamsung thinks Claude Code can help it boost chip designを参照していただきたい。