8月25日、Ars Technicaが「AI is hitting entry-level jobs hardest, Stanford study finds」と題した記事を公開した。スタンフォード大学の研究によると、AIが雇用に与える影響は経済全体では統計的にほぼ見えないにもかかわらず、22〜25歳の若年労働者に限定して分析すると2022年以降に最大21ポイントもの雇用格差が生じていることが判明した。しかもその主因は解雇ではなく「そもそも採用しない」という企業行動の変化にある。
若年層の雇用に明確な「分断」
この研究の最も核心的な発見は、22〜25歳の若年労働者に限定したデータに現れている。
経済全体で見ると、AIの影響を受けやすい職種とそうでない職種の間に、雇用水準の差はほとんど見られない。しかし若年層に絞ると、2022年以降の数字が大きく乖離する。
- AIの影響度が上位40%に入る職種:若年層の雇用が約11%減少
- AIの影響度が下位60%に入る職種:若年層の雇用が10%増加
この数字の読み方として注意が必要なのは、「21ポイント」とは雇用総数が一律に21%減ったという意味ではなく、AI影響度の高い職種と低い職種の間で生じた雇用変化率の差が21ポイントに達したということだ。職種全体の雇用統計には現れず、若年・エントリーレベルの層だけに集中して出現しているのが特徴的である。
「解雇」ではなく「採用しない」という形で進んでいる
研究者がデータをさらに掘り下げたところ、雇用減少の主な原因は既存社員の解雇や離職ではなく、エントリーレベルの採用率の低下にあることが判明した。また、賃金の低下よりも雇用総数の減少として現象が表れている点も特徴として指摘されている。
つまり、既に職についているベテランは今のところ大きな影響を受けていない。企業がAIで業務を代替できるようになった結果、「新卒・若手をそもそも採らない」という選択が静かに進行しているわけだ。
この構造は、雇用統計の表面だけを見ていては見逃しやすい。マクロの失業率や雇用者数が安定していても、労働市場への「入口」が塞がれていれば、若年層のキャリア形成には深刻な影響が及ぶ。
「代替型AI」と「補完型AI」で明暗が分かれる
研究ではAIの利用形態を2種類に区別している。この分類はAnthropicの「Economic Index」に基づくものだ。Economic Indexとは、実際のAI利用データをもとに、各職種においてAIがどのような役割を担っているかを定量的に測定する指標である。
- Automative(自動化型):人間が担っていた作業をAIが丸ごと置き換える
- Augmentative(拡張型):人間の作業をAIが補助・強化する
自動化型AIの影響が大きいとされた職種の例として「会計士・監査役」「受付・情報案内係」が挙げられている。一方、拡張型AIの活用が多い職種としては「最高経営責任者(CEO)」「看護師」が挙げられた。
そして予想通り、自動化型AIが普及している職種ほど、エントリーレベルの相対的な雇用水準が低いという結果が出ている。研究者らは「自動化志向のAI利用は労働力を代替する一方、補完的な利用は雇用が横ばいか増加する傾向と一致している」とまとめている。
研究が示すキャリア・組織への示唆
この研究の対象は会計・受付・看護・経営職など職種横断的であり、特定の業界に限らない広範な労働市場のトレンドを映している。AIに「代替される側」にいるか「補完される側」にいるかという問いは、もはや中長期の話ではなく、採用市場においてすでに結果として出始めている。
特に注目すべきは、このトレンドが個人のキャリアに留まらず、業界全体の人材構造に波及する点だ。エントリーレベルの職が失われるということは、次世代のシニア人材が経験を積む場も同時に失われることを意味する。「エントリーレベルの仕事が減れば、次世代の熟練人材はどこで経験を積むのか」という問題は、ソフトウェアエンジニアリングに限らず、AIによる自動化が進む職種全般に共通する構造的な課題として浮かび上がっている。
※編集部の考察:今後は「AIに代替されにくい職種を選ぶ」という個人レベルの判断に加え、企業や教育機関が若年層の実務経験をどう担保するかという設計論が重要になってくるだろう。
詳細はAI is hitting entry-level jobs hardest, Stanford study findsを参照していただきたい。