8月25日、Hassan Mujtabaが「Intel Crescent Island GPUs Pack Up To 32 Xe3P Cores, Optimized For Agentic AI With Low-Cost LPDDR5X That Reaches Up To 480 GB Capacity」と題した記事を公開した。NVIDIAとAMDが高帯域メモリ(HBM)の積載量を競い合う中、IntelはあえてLPDDR5Xを選択し、最大480 GBという圧倒的な大容量を低コストで実現した次世代AI GPU「Crescent Island」の詳細スペックと設計思想が明らかになった。
LPDDR5X採用という逆張り戦略
NVIDIAやAMDがHBM3EやHBM4でメモリ帯域幅を競う中、IntelはCrencent IslandにあえてLPDDR5Xを採用した。LPDDR5Xはもともとスマートフォン向けに普及した低電力DDR規格であり、HBMと比べて単体の帯域幅では劣るものの、供給量が豊富でコストが大幅に低い。一方、HBM(High Bandwidth Memory)はDRAMを垂直に積層してシリコンインターポーザ上にGPUと隣接配置する高帯域メモリ規格で、AI/HPCワークロード向けに広く採用されているが、製造の難易度から供給が逼迫しており価格も高騰している。Intelはここに着目した。
各社の最大メモリ容量を比較すると:
| GPU | メモリ種別 | 最大容量 |
|---|---|---|
| Intel Crescent Island | LPDDR5X | 480 GB |
| AMD Instinct MI450X | HBM4 | 432 GB |
| NVIDIA Vera Rubin | HBM4 | 288 GB |
※上表のAMD Instinct MI450XおよびNVIDIA Vera Rubinのスペックは元記事に掲載された比較に基づく。NVIDIA Vera Rubinは複数の構成ティアが存在するとされており、288 GBは元記事記載の数値だが最大値かどうかは公式発表の確認が必要だ。
容量だけで見ればCrescent IslandはNVIDIA Vera Rubinの1.6倍以上を実現している。TDPはエアクール対応のPCIeカードで350Wに抑えており、液冷設備を必要としない点もデータセンター運用コストに効く。
Intelが強調するのは「Perf/Watt」と「Perf/TCO(総所有コスト)」だ。HBMの調達コストと消費電力をLPDDR5Xで削り、大容量化で勝負するというポジションである。
なお、IntelブランドのリファレンスカードはLPDDR5X 160 GB搭載となるが、ODMパートナーには最大480 GBまで自由に構成できる選択肢が与えられる。
なぜIntelはAI GPU市場で出遅れたのか
IntelはかつてGaudi 2/3でNVIDIAのH100対抗を図ったが、ソフトウェアエコシステムの成熟度やCUDAに匹敵する開発者基盤の欠如が障壁となり、データセンター市場での大規模展開には至らなかった。Crescent Islandは、Gaudi世代とは異なりコンシューマ向けArc GPU(Battlemage世代)と共通のXe3Pアーキテクチャを採用しており、クライアントからデータセンターまで統一されたソフトウェアスタックで展開できる点が前世代との大きな違いとなっている。
Xe3Pアーキテクチャの内部構造
Crescent Islandは第3世代Xeアーキテクチャ「Xe3P」をベースにする。クライアント向けArc C-Seriesとも共通のアーキテクチャだが、Xe3PはクライアントiGPUからデータセンターAI GPUまでスケールアウトできる設計になっている。
コア構成は以下のとおり:
- Xe Coreあたり: ベクターエンジン×8、XMX(行列演算)エンジン×8
- Xe Vectorエンジン: FP8+FP4精度対応、3-way co-issue、FP64フルレート(64 FMA/XeCore)
- XMX(Xe Matrix Extensions): 16段のシストリックアレイ
- Xe CoreあたりのL1$/SLM: 512 KB(合計16 MB)
- Compute Slice: 8 Xe Coreで1スライスを構成、計4スライスで32 Xe3Pコア
- 合計: 256 ベクターエンジン、256 XMXユニット
- 統合L2キャッシュ: 32 MB
データ型の対応範囲はFP4からFP64まで幅広く、推論ワークロードにとって重要な低精度演算も網羅している。
また、従来のGPUが持つグラフィクス・3Dレンダリングブロックを完全に省いており、その分のダイ面積をGPGPU(汎用GPU演算)に振り向けている。これによりAI演算密度を高めつつ、製造コストの削減にも寄与する設計方針だ。
アジェンティックAI推論への最適化
「アジェンティックAI」とは、複数のAIエージェントが自律的に連携してタスクを遂行するシステムを指す。長いコンテキストウィンドウと大容量メモリが要求されるワークロードであり、Crescent Islandはこの用途を正面から狙っている。大容量のLPDDR5Xはモデルの重みとKVキャッシュをオンボードに保持し続けられる点で、長文コンテキストのアジェンティックワークロードと相性がよい。
ソフトウェア面でのサポートも明示されている:
- vLLM / SGLang / llm-d / NVIDIA Dynamoとの連携
- KVキャッシュ(Key-Valueキャッシュ)を考慮したルーティングとオフロードによるスケーラブルな推論
- エージェントコードを変更せずに異種インフラ上で動作する「Heterogeneous agent orchestration」
- 言語・推論・マルチモーダル・拡散モデルの幅広いサポート
オープンフレームワークへの対応を明記しているのは、「Tokens-as-a-service」プロバイダを主要ターゲットとして意識しているためだ。NVIDIAのCUDAエコシステムが支配的な市場において、オープンスタックへの対応を前面に出すことは、ベンダーロックインを避けたいクラウドプロバイダやスタートアップへの訴求点となる。
出荷予定と現状
Intelは現在、既存の**Arc Pro B-Series**を使ってオープン・統合ソフトウェアスタックの評価を進めており、Crescent Islandでその成果を引き継ぐ計画だ。
カスタマーサンプリングの開始は2026年後半を予定している。ターゲットはエアクール対応のデータセンターおよびワークステーションだ。
詳細はIntel Crescent Island GPUs Pack Up To 32 Xe3P Cores, Optimized For Agentic AI With Low-Cost LPDDR5X That Reaches Up To 480 GB Capacityを参照していただきたい。