8月24日、Digidayが「OpenAI is sharpening its focus on enterprise advertisers」と題した記事を公開した。OpenAIが広告事業において大企業(エンタープライズ)向けの戦略を本格化させている動向を伝えている。
年収最大6,200万円の求人が示す本気度
OpenAIは現在、「Head of Ads Enterprise Marketing」というポジションをサンフランシスコで募集している。報酬は37万4,000〜41万5,000ドル(約5,600万〜6,200万円)+エクイティ(自社株報酬)という水準だ。
この求人に記載されている職務内容が、OpenAIの広告戦略の方向性をよく示している。担当者は「エンタープライズ広告のパイプラインと長期成長を促進するためのコンテンツ、ソートリーダーシップ、イベント、デマンドプログラムを構築する」とともに、「OpenAIを世界のマーケターにとってのプレミアム広告プラットフォームとして位置づけるナラティブを形成する」ことが求められる。
背景として押さえておきたいのは、OpenAIの急成長ぶりだ。ChatGPTの月次アクティブユーザー数は2025年初頭時点で4億人を超え、エンタープライズ契約企業数も急増している。これだけの規模を持つプラットフォームが広告事業に参入すれば、大手ブランドの予算を引き寄せうるスケール感があることは想像に難くない。OpenAIが広告プロダクトの提供を公式に示したのは2024年後半からとされており、今回の採用強化はその本格展開フェーズに入ったシグナルといえる。
エンタープライズ向けの機能が続々と追加
OpenAIの広告マネージャーには、大規模な広告運用を前提とした機能が相次いで実装されている。
中でも象徴的なのがカスタムオーディエンス機能だ。デジタルマーケティングエージェンシー・AccuracastのグループCEO、Farhad Divechaは次のように指摘する。
「OpenAIが現在提供している最小オーディエンスサイズは25,000人だ。これに対応できるのはエンタープライズクライアントだけで、ほとんどの中小企業はアップロードできる25,000人規模の顧客データベースを持っていない。」
他にも追加された機能は大規模運用向けのものが目立つ。
- 予算残量の通知・フラグ機能:複数キャンペーンを並行管理するメディアチームに向けたアラート
- アカウントヘルス指標:主要パフォーマンス指標を分析するダッシュボード
- CMO向けレポートチャート生成:経営層への報告資料を自動生成
- キャンペーン最適化の自動化:代替ヘッドラインや広告コピーの提案機能
Zeno GroupのSVP(ペイドメディア担当)Shamsul Chowdhury氏はこう評する。
「OpenAIはGoogleの実績あるプレイブックを参考にしており、広告主にスケールの大きさを示そうとしている。プロアクティブなパフォーマンス改善フラグは、広告主の運用負荷を下げるための施策だ。」
エンタープライズ戦略の延長線上にある広告事業
今回の広告事業強化は、OpenAIが既にAIプロダクトで構築してきたエンタープライズ戦略の延長線上にある。モデルへのAPIアクセスを売るだけでなく、大規模組織への技術的な組み込みに必要なコントロール、インテグレーション、パートナーネットワーク、営業インフラを整備してきた流れと同じ構造だ。なお、「Googleのプレイブックを踏襲」という表現は、前述のChowdhury氏が業界人として述べた見解であり、OpenAI自身がそう表明しているわけではない点は補足しておく。
現時点での評価については、慎重な声もある。Sourcepointのシニアバイスプレジデント(COO)Brian Kane氏はこう述べる。
「OpenAIが大規模広告主を支援できるプラットフォームを構築しているのは明らかだが、現時点でエンタープライズ広告プラットフォームと呼ぶのは時期尚早だと思う。現在の機能セットは、真にエンタープライズ向けというよりも、コマース(EC)寄りに感じられる。」
中小企業(SMB)は後回し、ただし切り捨てではない
現時点でOpenAIが大企業を優先する理由は明確だ。ある米国の広告エグゼクティブは「大企業の広告予算を確保することで、将来的に中小企業を支援するためのインフラ整備資金を捻出する必要がある」と説明する。構造としては、まず大手ブランドとの取引を通じて収益基盤と運用実績を積み上げ、そのうえでSMB向けのセルフサーブ型プロダクトへと展開していくという順序だ。
一方で、OpenAIはSMB向けチームの立ち上げも進めており、ロケーションベースのターゲティングや特定地域の除外機能の追加も始まっている。前述の広告エグゼクティブは「ローカルに限定されるブランド向けの機能を作り始めているシグナルだ」と見ている。SMBへの対応が本格化するタイミングは現時点では不明だが、機能拡充の方向性はすでに示されつつある。
現状の優先順位は明確に大企業側にある。OpenAIはDigidayのコメント要請には回答しなかった。
詳細はOpenAI is sharpening its focus on enterprise advertisersを参照していただきたい。