8月24日、TNWが「Workers are rewriting their LinkedIn histories, and 2022 now looks 30% more AI-skilled than it was」と題した記事を公開した。LinkedInプロフィール2,940万件を追跡した研究により、約5人に1人(19.7%)がすでに退職済みの職歴を遡って編集しており、その結果として2022年当時のAIスキル普及度が現在のスナップショットから見ると約30%過大評価されるという、採用・研究データの根幹を揺るがす測定上の問題が明らかになった。
2,940万件のプロフィールが暴いた「歴史の書き換え」
全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーが、米国のLinkedInプロフィール2,940万件を追跡調査した結果、約5人に1人(19.7%)が、すでに退職済みの職歴のタイトルや説明文を遡って編集していたことが判明した。
特に目を引くのがAI関連の動向だ。過去の職歴に「AI」「GPT」「LLM」「artificial intelligence」といった用語を追加するケースが、ChatGPTがリリースされた2022年末以降に6倍超に急増している。
研究者たちはこの行為を「タイムトラベル」と呼ぶ。編集の中央値は、対象となった仕事が終わってから4年以上後に行われていた。
採用モデルを狂わせる「30%の歪み」
この研究で最も重要な発見は、個々の労働者の行動ではなく、データとしての歪みだ。
2026年時点でLinkedInのスナップショットを取得した場合、2022年時点でAI関連スキルがどれだけ普及していたかを約30%過大評価すると研究者たちは推定している。
これは労働市場研究や採用モデルにとって深刻な測定上の問題だ。LinkedInの職歴データは、学術的な労働市場分析の基盤になるだけでなく、求職者をスクリーニングするAI採用ツールの訓練データとしても広く使われている。すでにAI同士が採用をめぐって競い合う時代において、訓練データに含まれる系統的な偏りは無視できない。
研究者自身も、AI語彙の追加が必ずしも誇張を意味するわけではないと慎重に述べている。当時の業務を現在の用語で説明し直しているだけのケース、あるいは単純に記載を補完しているだけのケースもある。ただし、いずれにせよ「過去のデータ」として使われる時点では、後から書かれた情報として扱われない。
消えていくものも:「リモートワーク」と「DEI」
追加される言葉がある一方で、消えていくものもある。
2025年末にかけて、「リモートワーク」関連の記述は追加と削除がほぼ同数になった。また、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)関連の用語は2025年初頭に急激に減少している。DEI関連では米国内の政治的・企業的な後退が続いており、それがプロフィール編集にも反映されているとみられる。
業界・職種によるばらつき
遡及編集の頻度は業界によって大きく異なる。
- テクノロジー・情報:31.6%(最多)
- 芸術・エンターテインメント:25.0%
- 専門・科学サービス:24.1%
- 調査全体の平均:19.7%
テクノロジー系が最も高い傾向は、AI関連の語彙追加という文脈では直感的に納得できる結果だ。スキル名称の変化が特に速い業界ほど、過去の職歴表記を「現在の言語」に翻訳したくなる動機が働きやすいとも考えられる。芸術・エンターテインメント分野が2位に入っているのはやや意外だが、フリーランスや複数の短期プロジェクトを組み合わせたキャリアが多く、職歴の補完・整理が頻繁に行われやすい職種構造が背景にあるとみられる。専門・科学サービスも平均を大きく上回っており、資格や専門用語のアップデートが職業的な文脈で正当化されやすい分野特性を反映している可能性がある。
EU AI規制との交差点
この問題はすでに規制上の論点にもなりつつある。欧州では2025年8月2日、採用・雇用判断に使われるAIシステムがEU AI法のハイリスク分類に正式に移行した。
同法の第10条は、訓練データについて「関連性があり、十分に代表的で、可能な限り誤りがなく、完全であること」を求める。この条項の起草時点で、プロフィールの遡及編集のような系統的な書き換えは想定されていなかったとみられる。しかし今や、採用モデルを訓練している企業は、その訓練データのうちどれだけが「後から書かれたもの」かを示す、具体的な数値つきの論文を突きつけられた形になる。
詳細はWorkers are rewriting their LinkedIn histories, and 2022 now looks 30% more AI-skilled than it wasを参照していただきたい。