8月24日、Los Angeles Timesが「Laid off for a bot, China's workers face an AI jobs squeeze」と題した記事を公開した。北京のプログラマー、費兆君(Fei Zhaojun)氏が上司に「AIはコーディング業務で人間を代替できるか?」と問われてからわずか2週間後、彼は約160人の同僚とともにレイオフされた。AIを活用している企業の割合が2024年の9.6%から2025年には47.5%へと急増し、若年失業率が全体の約3倍に達する中国で、AIによる雇用代替の現実と、その背景にある政府政策・経済的影響をこの記事は詳細に描き出している。
ボットに仕事を奪われたプログラマー
費氏(40歳)はこう述べている。
「中堅コーダーの仕事は、ほとんどのケースで事実上代替可能だ。たとえそれが人間を全員置き換えるような事態につながるとしても、今の段階では、みんなと同じようにAIを使うしかない。」
現在、彼はキャリアの休止期間中にvlog形式の短い動画を制作している。収入にはなっていないが、普通の人々の生活を記録した動画が誰かの助けになればと考えている。費氏のケースは個人的な不運ではなく、中国全土で起きている構造変化の象徴だ。
中国特有の「AI普及の速さ」
この現象が中国で加速している背景には、政府の強力な後押しがある。中国政府は「AI Plus」イニシアチブと2030年までの第14次・第15次五カ年計画のもと、あらゆる産業へのAI導入を推進しており、米国との技術覇権競争で優位に立つことを目指している。「AI Plus」とは、製造業・医療・教育・金融などの既存産業にAIを融合させることで生産性向上と国際競争力強化を図る、中国政府の国家戦略的イニシアチブである。
オックスフォード大学中国政策ラボの研究員、Zilan Qian氏はこう指摘する。
「中国に特有なのは、政府が経済全体へのAI普及に本腰を入れている点だ。そのため、AIが他国と比べて異なる領域へより速く浸透する可能性がある。」
市場調査会社IDCのデータによれば、AIモデルや「エージェント」を活用していると回答した中国の工業企業の割合は、2024年の9.6%から2025年には47.5%へと急増した。この数字は、政府主導の普及促進がいかに急速に現場へ浸透しているかを端的に示している。
調査・助言会社Plenumの北京在勤シニアアナリスト、He Shujing氏は次のように述べている。
「中国では(他国と比べて)反AI感情が明らかに少ない。ほとんどの人はAIに対してポジティブ、中立、あるいは穏やかな関心を持っている。」
欧米諸国でAIへの警戒感や規制論議が高まる中、こうした世論の違いが普及速度の差を生み出している側面もある。
翻訳、脚本、配送……広がる影響の範囲
プログラミングだけではない。四川省成都在住の兼業翻訳者、杜勤春(Du Qinchun)氏はAIモデルの訓練を手伝うことで当面の仕事を確保しているが、「業界の報酬は数年前と比べて半分以上カットされた」と話す。外国語学部の人気低下も顕著で、AI翻訳ツールの普及と連動している。
中国のショートドラマ産業でも生成AIの活用が進み、今年第1四半期の実写短編・縦型動画シリーズの本数は前年同期比で約75%減少したと中国メディアは報じている。
フードデリバリーロボットも全国で普及が進んでおり、数百万人規模の配達員の生活を脅かす可能性がある。ヒューマノイドロボットは郵便センターでの荷物仕分けや交通誘導、コーヒー製造といった作業にも進出しつつある。
国際労働機関(ILO)のレポートは、女性が男性よりもAI活用による雇用喪失リスクが高いと指摘している。電子機器の組み立てなど自動化に適した分野に女性が集中していること、また科学・技術分野における女性の代表性が依然低いことが背景にある。
マクロ経済への波及:成長鈍化との相乗効果
コーネル大学の経済・貿易政策教授Eswar Prasad氏は、AIが生産性を全般的に押し上げる一方で、雇用に深刻な混乱をもたらすと警告する。
「AIは雇用成長の問題を悪化させ、社会的安定に悪影響を与える可能性がある。」
中国の全体的な都市部失業率は約5%で推移しているが、16〜24歳(学生を除く)の若年失業率はその約3倍に達する。AIによる雇用代替が、もともと就職難に直面していた若年層をさらに直撃している構図だ。中国のテック大手も、AIを一因として数万人規模の人員削減・再編を実施している。
一方で長期的には、少子高齢化が状況を変える可能性もある。2050年までに中国では退職者1人を支える現役世代が2人を下回る(米国は2.5人超)と予測されており、自動化が単なる脅威ではなく、縮小する労働力を補う手段になりうるとの見方もある。
AIと共存する人々
脚本家だった王志成(Wang Zhicheng、32歳)氏は、勤務先が脚本家13人のうち半数近くをレイオフした後、独立して絵本制作を始めた。AIが生成した脚本は時間を節約できる反面、「エピソードが繰り返しになりがちで定型的」と感じると言う。
「AIはWordのようなツールとして扱えばいい。AIが生み出した選択肢の中からどれを選ぶかを決めるのは、依然として人間だ。」
高校の化学教師、楊征(Yang Zheng、29歳)氏は、生徒がAIを宿題に使っていても脅威とは感じていない。「教師がいつもそこにいるわけではない。AIはリアルタイムで答えてくれるから、生徒が追加の質問をできる。間違えることも多いが、徐々に改善されている」と話す。
冒頭の費氏、絵本作家に転身した王氏、教師としてAIを受け入れた楊氏——それぞれの対応は異なるが、共通するのは「AIと競うのではなく、AIと並走せざるを得ない」という現実認識だ。政府主導で急速に進む中国のAI普及は、個々の労働者に適応を迫りながら、社会全体の構造をも静かに書き換えつつある。
詳細はLaid off for a bot, China's workers face an AI jobs squeezeを参照していただきたい。