8月25日、Techstrong AIが「Salesforce Partners Report Zero Revenue Boost from Agentforce Two Years After Launch: Study」と題した記事を公開した。Salesforceのエンタープライズ向けAIプラットフォーム「Agentforce」が、2024年秋のリリースから約2年が経過してもパートナー企業の新規受注に貢献できていないという調査結果を詳報している。CEO Marc Benioffが強調する「ARR10億ドル突破」という公式メッセージと、チャネルパートナーが肌で感じる温度感の乖離が数字として浮かび上がってきた。
パートナー企業が明かすAgentforceの現実
投資会社TD Cowenが実施した調査によると、米国・欧州・アジアのSalesforceパートナー企業(Salesforce製品の導入・構築を担う第三者実装企業)から厳しい評価が相次いでいる。元記事では調査のサンプル数や実施時期の詳細は開示されていないが、複数地域にわたる現場実装企業への調査として紹介されている。
- **56%**のパートナーが「将来的に顧客需要は生まれる」と期待を示しつつも、「企業の取り組みが成熟するにはもっと時間が必要」とコメント
- 約3分の1が試験評価フェーズの顧客を抱えると回答
- Agentforceを新規受注の主要因として挙げたパートナーはゼロ
この「ゼロ」という数字は、Agentforceによる収益が皆無であることを意味するのではなく、あくまでも「新規契約を獲得する際の主要な決め手になったケースがなかった」という調査上の定義に基づく点には注意が必要だ。
さらに、四半期目標を達成または超過したパートナーは**33%**にとどまり、前四半期の43%から下落した。KeyBanc Capital Marketsが実施した別の調査(こちらも元記事では規模・時期の詳細は非開示)でも同様の傾向が確認されており、企業のCIO層にも不満が広がっていることが示唆されている。
Salesforce経営陣の主張とのギャップ
一方、Salesforce側の公式見解は対照的だ。CEO Marc BenioffはFY2027第1四半期の決算説明会で、Agentforceがすでに年間経常収益(ARR)10億ドルを突破し、将来契約価値を押し上げていると説明した。
SalesforceはAgentforceを、いわゆる「SaaSアポカリプス」への対抗軸と位置づけている。SaaSアポカリプスとは、自律型AIエージェントが従来の席数(シート)ベースのソフトウェア購入モデルを代替・侵食していく市場変化を指す言葉で、近年テック業界のアナリストや投資家の間で使われるようになった表現だ。Salesforceはこの構造変化をリスクではなく機会と捉え、Agentforceをその中心に据える戦略を打ち出している。
しかしKeyBanc Capitalのアナリストは「開示されている数字からは、勢いが積み上がっている様子は読み取れない」と指摘し、Salesforceは最新のエンタープライズ支出調査で際立って低い評価だったと述べている。
商業化が進まない2つの構造的な障壁
KeyBanc Capitalのアナリストが指摘する主な阻害要因は以下の2点だ。
- 企業データの分断 — 実際のAI処理に活用できるほど統合されておらず、実行基盤として機能しない
- 製品成熟度への懸念 — 現時点でのプロダクト完成度に対する否定的な評価が広がっている
テックアナリストのJack Goldは、この調査結果に驚きはないと述べた。
「多くの企業は、AIを使って既存ソリューションのROIを最大化する方法を本当に分かっていない。既存のソフトウェアにAIを乗せるだけでは通常十分でない。テクノロジーを最大限に活用するには、ワークフロー自体を再設計する必要がある。それなしには、大きなブーストにはならない。Salesforceでも他のツールでも、機能が追加されても実際のワークフローは以前と変わっていないケースが多いとみている」
— テックアナリスト Jack Gold
エンタープライズAIの「採用ギャップ」という現実
Agentforceをめぐる状況は、エンタープライズAI全般が直面している構造的な問題を端的に示している。PoC(概念実証)段階の熱量が実際の商業展開につながりにくい現象は、AIエージェントに限らず多くのエンタープライズAI製品に共通する課題だ。データ品質・セキュリティポリシー・ワークフロー変更の難しさがボトルネックになることが多く、Agentforceも例外ではない状況だ。
この「採用ギャップ」は、Salesforceに限った話ではない。MicrosoftのCopilot for Microsoft 365や、ServiceNowのAIエージェント機能なども、大企業への本番展開においては類似の壁に直面していることが複数のアナリストレポートで指摘されている。企業がAI製品を評価・試験導入する速度に対し、全社的な本番展開・ワークフロー再設計・ROI確認に至るサイクルが追いつかないという構図は、現在のエンタープライズAI市場における共通の課題といえる。
※編集部の考察:Agentforceは2024年9月にSalesforce Dreamforceで発表・同年秋に正式提供が開始された。「リリースから2年」という表現は2026年8月現在の経過期間として概算上は妥当だが、Salesforceが公式に「2周年」と定義しているわけではない点は留意されたい。
Salesforceはマルチビリオンドル規模のAIピボットが現場に具体的な成果をもたらせるか、チャネルパートナーに証明することを求められている。
詳細はSalesforce Partners Report Zero Revenue Boost from Agentforce Two Years After Launch: Studyを参照していただきたい。