8月24日、Chips and Cheeseが「Hot Chips 2026: CUDA Targets RISC-V」と題した記事を公開した。NvidiaがCUDAをRISC-Vアーキテクチャへ対応させるための要件を、Hot Chips 2026で公式発表したというものだ。Hot Chipsはスタンフォード大学を拠点とする老舗のマイクロプロセッサ系学術カンファレンスで、毎年8月に開催される。今年は各社からRISC-V関連の発表が相次いでいる。
CUDAはGPUコンピュートのデファクトスタンダードでありながら、これまでx86-64とAArch64(Arm 64ビット)のCPUにしか対応してこなかった。もしRISC-V対応が実現すれば、NvidiaのエコシステムとはISA(命令セットアーキテクチャ)レベルで独立した独自CPUを設計した企業でも、CUDAベースのGPUコンピュートを利用できる道が開く。AI・HPC市場においてRISC-Vの採用が加速するなか、今回の発表はそのエコシステム拡張の具体的な条件を初めて示したものとして意義深い。
Nvidiaが課す要件の中身
NvidiaはRISC-V CPUに対し、まず**RVA23プロファイル**への準拠を求めている。RVA23はRISC-Vのアプリケーション向けプロファイル仕様で、ベクタ演算や仮想化など幅広い拡張命令の実装を義務づけるものだ。さらにRISC-V Server SoC仕様およびServer Platform仕様への適合も必須とされており、RAS(信頼性・可用性・保守性)機能やセキュリティプロセッサなど「サーバーグレード」の水準が前提となる。
その上でNvidiaは独自の追加要件をいくつか定めている。
① ACPIサポート
ACPI(Advanced Configuration and Power Interface)はハードウェアの能力をソフトウェアが検出するための仕組みで、電力・性能・温度管理にも使われる。CUDA移植の作業を開始した当初、RISC-V向けACPIは存在しなかった。しかし2025年にUEFIフォーラムがRISC-V向けACPIサポートを追加し、RISC-V BRS(Boot and Runtime Services)仕様も批准されたことで、この課題はひとまず解決された。
② PCIeコヒーレンシ(キャッシュ一貫性)
CPUがデータをキャッシュに書き込んだ後、DMAがGPUへデータを転送しようとするとDRAM上の古いデータを読んでしまう問題がある。逆にGPUからの転送後にCPUがキャッシュ上の古いデータを参照するケースも発生する。PCIeコヒーレンシがなければ、ソフトウェア側でキャッシュを明示的に無効化する処理を実装しなければならず、CUDAスタックにそれを組み込むのは困難だとNvidiaは説明している。RISC-V Server SoC仕様ではコヒーレンシの実装を「推奨」にとどめているが、Nvidiaは「保証」を求める立場を取る。
③ PCIeピアツーピア通信
2つのGPU間でバッファを直接転送できなければ、データをいったんCPUメモリ経由で運ぶ必要があり、性能低下と同期処理の複雑化を招く。
④ ベクタ拡張(Vector Extensions)
述語(predication)サポートにより分岐命令を回避できるため、効率的なコード生成に必要とされる。
なお、Nvidiaは全要件を詳細には公開しておらず、「2ページ以内に収まる」とだけ説明している。
NVLink FusionのRISC-V対応も視野に
NvidiaはCUDA対応に加え、NVLink FusionへのRISC-V適用についても言及した。NVLink FusionはNvidiaのNVLink IPを他社チップに実装することを可能にする仕組みで、CPUとGPUをNVLink C2C(チップ間接続)で統合し、高帯域・低レイテンシのメモリアクセスを実現する。NvidiaとMediaTekが共同開発したSoC「GB10」ではMediaTekのCPUダイとNvidia GPUをこの接続方式で組み合わせており、NVLink FusionはこれをRISC-V CPUでも実現しようとするものだ。
NVLink Fusionの要件はCUDAの全要件を包含した上に、DOCA(Nvidiaのデータセンター向けソフトウェアフレームワーク)やNCCL(NvidiaのGPU間通信ライブラリ)などのソフトウェアフレームワーク対応も求められる。また、MediaTekとGB10を開発した際のようなNvidiaとの密接なパートナーシップが前提となる。
NvidiaはすでにSiFiveとの提携を明らかにしており、SiFiveがHot ChipsでCUDAを動作させるシステムのデモを行った。スライドに示されたCPU仕様はそのシステムに対応するとみられ、高コア数のサーバーチップであることを示唆している。
普及までの道のりは長い
記事は楽観的な見通しを示していない。現存するRISC-Vハードウェアの大半はこれらの要件を満たさない。特にACPIは難関で、AArch64の世界でさえ標準に含まれて数年経つにも関わらず対応が「まだらな状態」だという。2025年に批准されたRISC-V向け標準が広く普及するには、さらに数年以上かかると見るのが妥当だ。
また、要件が満たされたとしても、対応製品は当面コンシューマー向けではなくサーバー向けになると予想される。ホビイストがシングルボードコンピュータでCUDAを試せる状況は、少なくとも近い将来には来そうにない。
一方で記事は、「PCIeコヒーレンシがなくても、DMA転送に対するキャッシュ無効化のコストはコンピュート量が多いワークロードでは許容範囲に収まる可能性がある」とも指摘しており、Nvidiaが要件を段階的に緩和し、より広いRISC-Vシステムへの対応が進む余地も残されている。
詳細はHot Chips 2026: CUDA Targets RISC-Vを参照していただきたい。