8月22日、RuntimeWireが「MCP roadmap prioritizes agent identity, server events and transport unification」と題した記事を公開した。MCPの共同作成者らが示した新ロードマップの核心は、リクエスト・レスポンス型という現行アーキテクチャの根本的な限界を破ることにある。数分〜数時間動き続けるエージェントジョブへの対応、人間不在での認証・権限委譲、そして100個のツールカタログがLLMのコンテキストを圧迫する問題——いずれも「ツール呼び出しの補助プロトコル」の域を超えた設計変更が必要とされている。
MCPは2024年11月25日にAnthropicがオープンソース標準として公開したプロトコルだ。AIアプリケーションとツール・データ・ワークフローを接続するM×N統合問題(AIクライアントごとに外部システムへのカスタム接続が必要になる問題)を解消するために設計された。現在はClaude、ChatGPT、Visual Studio Code、Cursorなど多数のクライアントで採用されている。
今回のロードマップは、MCPの共同作成者であるDavid Soria ParraとAnthropicのエンジニアDen Delimarskyが8月22日に公開したものだ。次期仕様リリースから今後6〜12ヶ月の方向性を示す。具体的な納期は示さず、あくまで優先度の指針として機能する。ロードマップに沿ったSpecification Enhancement Proposalは優先レビューを受け、それ以外は審査キューが長くなり採択基準も厳しくなる——これはメンテナーの有限なリソースをどう配分するかという意思決定でもある。
エージェント向け非同期イベントが最優先
現在のMCPはリクエスト・レスポンス型の交換を前提としている。計算機を呼んだりドキュメントを取得したりする単純な操作には十分だが、数分から数時間動き続けるエージェントジョブには対応できない。
ロードマップの第一優先事項は、既存のTasks・subscriptions・progress notificationsを統合したライフサイクル管理の整備だ。サーバー起点のイベント(Webhookやチャンネル)を導入し、クライアントがポーリングなしに結果を受け取れる仕組みを整える。またTasksエクステンションをコア仕様に取り込む計画も示した。
GoogleのAgent2Agent(A2A)プロトコルとの関係について、ロードマップは「A2Aはエージェントどうしのコラボレーションをカバーし、MCPはエージェントとツール・コンテキストの接続を担う」と整理している。ただしMCPも長時間タスク・ストリーミング更新・非同期状態変化といった、A2Aと似た運用特性を必要とするフェーズに入っている。
エージェント自身のIDと認証
現行のMCP認可フローは「ブラウザで人間がアクセス承認できる」ことを前提にしている。しかしクラウド上のエージェントは人間不在で動作し、ユーザーの代理として行動し、さらにサブエージェントを生成して親より狭い権限を委譲する必要がある。
この領域の担当はDelimarskyだ。MicrosoftでセキュリティとAuthorization領域を担当した経歴を持つ。ロードマップは以下の標準メカニズムを活用したエージェントID・委譲の実装を明示している:
- **Demonstrating Proof of Possession(DPoP)**:トークンの不正転用を防ぐ仕組み
- **Workload Identity Federation**:クラウドワークロードへのID付与
- Identity Assertion JWT Authorization Grant
- 標準トークン交換
目標は、貼り付けAPIキーや長期トークンを、サーバーがワークロードに紐付けて検証できるクレデンシャルに置き換えることだ。
ただし、これで信頼問題がすべて解決するわけではない。OWASPのMCPセキュリティガイダンスは、悪意あるツールレスポンスがモデルのコンテキストに命令を注入し、不正なデータアクセスやアクションを引き起こす「ツールポイズニング」のリスクを指摘している。ワークロードクレデンシャルは認証と権限制限には寄与するが、ツールの検証・隔離・最小権限の強制はクライアント側の実装に依然として委ねられる。
トランスポートの統一とツールカタログ問題
トランスポート統一は7月28日の仕様改訂の延長線上にある。この改訂の背景には、リモートとローカルでトランスポート実装が二分されることで開発者の実装・テスト負荷が増大していた事情がある。改訂ではリモートMCPサーバーがプロトコルレベルのセッションを廃止し、ステートレスなHTTPサービスに近い挙動に変わった。今後はローカルサーバーもStreamable HTTPをstdio経由で話せるよう拡張し、トランスポートを一本化する方向だ。開発者が実装・テストすべき挙動パターンが減る。
ツールカタログ問題も見過ごせない。現在のMCPは、サーバーが100個のツールを公開すると、ユーザーが質問する前にクライアントがそのカタログ全体をモデルに渡してしまう。LLMのコンテキストウィンドウ(一度に処理できるテキスト量)は有限であり、大量のツール定義を一括注入するとコンテキストを圧迫し、道具選択の精度も低下する。長時間エージェントでは会話が深まるほどこの問題が深刻になる。
対策として「プログレッシブディスカバリー」が提案されている。会話が絞り込まれるにつれてサーバーが段階的に追加ツールを公開する仕組みだ。同時にtools/callの結果コントラクトの明確化も行う。現在は構造化出力と非構造化出力が混在しており、どちらをクライアントがモデルに渡すか曖昧になっている。
SDK整備とガバナンス
ロードマップが掲げる5つの優先領域のうち、SDK整備も明示されている。現状では言語・環境ごとにSDKの機能水準にばらつきがあり、新仕様の機能(非同期イベント・エージェントIDなど)が各SDK実装に反映されるまでのラグが課題となっている。今後はSDK間の機能パリティを高め、仕様変更に追従しやすい体制を整える方針だ。
MCPは2025年12月9日にLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundationに寄贈されたが、技術的な最終決定権はリードメンテナーが保持する。ガバナンスモデル上、メンバーシップは個人に帰属し、雇用主には帰属しない。
Soria Parrが最初に解決しようとした問題は「Claude Desktopと開発環境の間でのコピペ」だった。次の仕様が想定するMCPは、自律ジョブを起動し、ストリーム更新を交換し、他のマシンに権限を委任できるインフラだ。
詳細はMCP roadmap prioritizes agent identity, server events and transport unificationを参照していただきたい。