8月21日、View from the Wingが「Delta Will Use AI To Cut Jobs And Set A Different Ticket Price For Every Passenger」と題した記事を公開した。デルタ航空CEOが「AIで乗客ごとに異なる運賃を生成する」と明言し、米国議会が「サーベイランスプライシング(監視価格設定)」として批判する中、同社の答弁に重大な矛盾があると指摘した内容だ。
利益率を50%改善する、というCEOの計算
デルタ航空のCEO、エド・バスティアン(Ed Bastian)は、AIを活用することで同社の利益を50%改善できると主張している。現在の営業利益率は約10%だが、コスト削減と収益向上を組み合わせることで15%に引き上げるという構想だ。10%から15%への引き上げは比率として50%増(1.5倍)に相当し、差額は約30億ドル——これはデルタの年間売上規模(約600億ドル超)に対する5ポイント分の利益率改善として算出されたものだ。
バスティアン氏が狙うのは、価格設定・乗員配置・整備・燃料管理・バックオフィス業務など、これまで人間が担ってきた意思決定をAIに置き換えることだ。氏はAIを「人工知能(artificial intelligence)」と呼ばず、「拡張知能(augmented intelligence)」という表現を使っている。「人々をよりスマートにするもの」という位置づけで、マーケティング上の配慮もあるが、氏の発言を聞けば本質は明らかだ——一部の人員は不要になる。
乗客ごとに異なる運賃を生成する「オファー管理」
技術面で最も興味深いのが、AIを使った個別ダイナミックプライシングの仕組みだ。
2024年11月のInvestor Dayで、当時の社長グレン・ハウエンスタイン(Glen Hauenstein)は、従来の航空運賃設定を根本から変える構想を説明した。
従来の仕組みは2ステップだった。
- 一つのチームが「運賃グリッド」(価格表)を設定する
- 別のチームが「どの価格帯の席を何席販売可能にするか」を管理する
デルタはこの2ステップを統合し、「オファー管理(offer management)」と呼ぶ一本化されたシステムに移行しようとしている。ある乗客が特定の日時・路線を検索した瞬間に、その検索に対して1つの価格が生成される、という仕組みだ。
このシステムの実装にはイスラエルのスタートアップ**FetcherrのAIが使われており、デルタは国内線の一部在庫からテストを開始し、段階的に拡大している。ハウエンスタイン氏はFetcherrを「眠らずに働き続けるスーパーアナリスト**」と表現した。最初のデプロイが全運賃の1%でも3%でも20%でも本質は変わらない——機械は人間のアナリストが眠っている間も学習し、価格を更新し続ける。
なお、この「オファー管理」は航空業界の新流通規格であるIATA NDC(New Distribution Capability)と密接に関係している。NDCはIATA(国際航空運送協会)が策定したAPIベースの流通規格で、航空会社がGDS(グローバル流通システム)を介さず、乗客ごとにカスタマイズされたオファーを直接提示できるようにするものだ。デルタが目指す個別価格生成は、このNDCのアーキテクチャを前提として設計されている。
「監視価格設定」への議会の批判と、デルタの答弁
米国議会が「サーベイランスプライシング(surveillance pricing)」として問題視したのに対し、デルタは「個人の購買データを使って個別に価格を設定してはいない」と答弁した。現時点のシステムが使うのは集計された市場データであり、個人の過去の購買履歴などではない——というのが同社の説明だ。
しかしこれは、議会の質問と投資家向け説明資料の間に存在する矛盾を巧みに回避した答弁だ。記事はこの点を鋭く指摘している。
「デルタは議会の第1の質問(現在、個人データを使っているか?)に答え、第2の質問(静的な運賃グリッドから個別生成オファーへの移行を目指しているか?)に答えたふりをした。」
個人を特定するデータがなくても、路線・日時・デバイス・販売チャネル・ロイヤルティステータス・セッション内の行動・法人ポータル経由かどうか・統計的に類似した他の乗客の行動などを組み合わせれば、支払意欲の推定は可能だ。それが「個別価格設定」かどうかは規制当局との定義論争になるが、経済的な機能は同じである。
規制上の管轄も複雑だ。FTC(連邦取引委員会)は小売業者に対してこうした価格設定を問題視しているが、**航空会社規制緩和法(Airline Deregulation Act)**によって各州法は航空会社に適用されず、FTC法も「航空会社」を適用除外としている。管轄は米国運輸省(DOT)だが、DOTは2014年にIATA NDCを承認した際、個別価格設定を違法とは判断しなかった。この三者の関係——FTCは権限なし、州法も届かず、DOTが唯一の監督者だが承認済み——という構図が、議会批判の背景にある。
個別価格設定は「必ずしも高くなる」わけではない
直感的には「AIが葬儀参列者を察知して高値をつける」という懸念が先に立つが、記事はこれに異論を唱えている。
航空会社は従来から相反する2つのことをやろうとしてきた。
- 火曜朝のシカゴ便にどうしても乗りたいビジネス旅行者には高い運賃を売りたい
- 安い運賃でないと旅行しない余暇旅行者には安い運賃で空席を埋めたい
問題は「安い運賃を公開すると、ビジネス旅行者も買えてしまう」ことだ。従来の「早期購入割引」「土曜泊条件」といったルールはこれを分離するための粗い壁だった。AIはより精密な壁を作れる。
「あるモデルが、私が500ドルでは買わないが275ドルなら買うかもしれないと判断すれば、275ドルを提示するのは合理的だ。それは追加収益であり、値引きのばらまきではない。同じフライトの別の乗客には500ドルが表示されるかもしれない。」
消える仕事、残る仕事
ユナイテッド航空CFOはすでに管理職の人員が4%削減されたと公表しており、さらに4%の削減を見込んでいる。デルタも同様の方向性だ。
影響を受けやすい職種として記事が挙げているのは以下の通り。
- 予約・カスタマーケア:定型変更、払い戻し、運休時の再予約
- レベニューマネジメント:運賃・アップグレード管理、在庫調整
- バックオフィス財務:買掛金処理、収益会計、照合、不正審査
- マーケティング・ロイヤルティ:キャンペーン作成、顧客セグメント
- ネットワーク・オペレーション:スケジュール最適化、機材変更
- 乗員計画:乗務員の運用計画、悪天候時の再割り当て
- 整備:予知保全計画、技術文書検索(ライセンスを持つ整備士の仕事への影響は後回し)
パイロット・客室乗務員・整備士は安全規則・資格制度・組合によって当面は守られる。ただし「ロボットが来る」という記述もあり、地上・手荷物業務は別とされている。
バスティアン氏の「利益率50%改善」という試算に対して、記事は懐疑的な見方も示している。他の航空会社も同じことをやっており、コスト削減の恩恵は競争によって運賃低下という形で乗客に還元される部分も大きいからだ。
詳細はDelta Will Use AI To Cut Jobs And Set A Different Ticket Price For Every Passengerを参照していただきたい。