8月22日、The Next Webが「Gemma has passed a billion downloads, Google says」と題した記事を公開した。オープンモデルの覇権争いが激化するなか、Googleの「Gemma」が10億ダウンロードという節目を迎えたことは、商用モデル一辺倒だったAI開発の勢力図が着実に塗り替わりつつあることを示す指標として注目に値する。
Gemmaが10億ダウンロード突破、派生モデルは10万超
Googleは8月21日(木)のブログ投稿で、オープンモデルファミリー「Gemma」の累計ダウンロード数が10億を超えたと発表した。また、過去2年間でコミュニティが公開したGemmaの派生モデル(バリアント)は10万件以上に達するという。Googleはこのエコシステムを「Gemmaverse」と呼んでいる。
ただし、この数字には注意点がある。GoogleのデベロッパーリレーションズエンジニアであるGus MartinsがBluesky上で補足しており、「AndroidとChromeのインテグレーションはカウントされていない」と明かしている。Googleはモデル別・年別・プラットフォーム別の内訳を公表していない。
Alibabaとの比較
競合他社と比べると、Alibabaは5日早い8月16日に、自社のオープンモデル「Qwen」が30億ダウンロードを突破したと発表している。Hugging FaceのState of Open Modelsレポートでは今年だけで20億4,500万ダウンロードと集計されており、派生モデル数もHugging Face上で151,448件と、MetaのHub全体の2.6倍に相当するとされている。
Googleが示す10万件は2年間の自社カウントであり、Hugging FaceのカウントはそのHub内の活動のみを対象としている点は押さえておく必要がある。
軌道上から医療現場まで:Gemmaの活用例
Googleはブログ内で複数の具体的な活用事例を列挙している。
宇宙空間での運用
NASA、スタートアップのSatlyt、Starcloudが衛星軌道上でGemmaを直接稼働させているという。用途は衛星上での画像分析、限られた地上へのダウンリンク帯域幅の最適化、衛星間の通信ルーティングだ。Googleは「制約された環境での複雑な推論に対応できることを示している」としているが、どのGemmaモデルをどの機体で使用しているかは明らかにしていない。
インドの公衆衛生アプリ
インドの国家保健局は、Gemma 4とGoogleのオープンソース医療データツールキットを「Aarogya Setu 2.0」に統合した。同アプリはAndroidで1億ダウンロード以上を持ち、Gemma 4が医療レポートを標準化されたデジタルフォーマットに変換することで、患者が医療機関をまたいで健康記録を管理・共有できるようにしている。
がん治療経路の発見(要注意)
YaleとGoogleの研究者がGemmaをベースに構築した「C2S-Scale」というモデルが、単細胞の言語を解釈して新たながん治療経路を発見し、生体細胞で検証されたとGoogleは主張している。「AIシステムが生体細胞で検証された新規治療メカニズム経路を産出した初めての事例」と述べているが、この主張の根拠はGoogleの自社アナウンスのみであり、査読済み論文へのリンクは示されていない。The Next Webも独自に検証していないとしている。
医療・動物研究向け特化モデル
医療分野向けの「MedGemma」は、インドのAIIMS(全インド医科大学院)での外来トリアージや、ウガンダ農村部の医療従事者支援システムで使われているという。Georgia TechとWild Dolphin Projectとの共同で開発された「DolphinGemma」は、イルカの発声を処理して音声シーケンスを予測するモデルで、現在も研究が継続中だ。
Awesome Gemmaリポジトリと開発者エコシステム
GoogleはAwesome GemmaというGitHubリポジトリをGemmaverseの公式ディレクトリとして立ち上げた。16のGemmaバリアント向けのモデルカード、Ollama・vLLM・LiteRTのセットアップガイド、Unsloth・Tunix・MLXのファインチューニングレシピが含まれている。
OllamaはGemmaに関して「最も人気の高いオープンモデルの一つだ。緊密なパートナーとして歩んできた旅は素晴らしいものだった」とコメントしている。なお、The Next Webは7月にOllamaがシリーズBで6,500万ドルを調達し、開発者数が約900万人に達したと報じている。
また、Kaggle上のGemmaチャレンジには1,600件以上のプロジェクト応募があり、受賞者は近日発表予定だ。
Googleが公表していないこと
Googleは10億という数字の算出方法を公開していない。カウント対象のプラットフォームも明示しておらず、冒頭のMartinsの発言でAndroidとChromeが除外されていることがわかる程度だ。10万件のバリアントの集計基準や、実際にアクティブに使われている数についても言及はない。
軌道上展開や臨床活用の事例はすべてGoogleの自社発表に基づくもので、独立した検証は行われていない。
オープンモデルを巡る競争は、開発者コミュニティの外側にも広がりを見せている。NvidiaがトリリオンパラメータのオープンモデルNemotronを開発中と報じられるなど、大手各社がオープンウェイト戦略を強化する一方、8月20日に公開されたホワイトハウスの技術戦略では、オープンウェイトAIが重要技術リストから外れるという動きもあった。政府の政策動向と産業界の実態が乖離し始めているなかで、Gemmaの10億ダウンロードという数字は、オープンモデルの実用的な普及度を示す一つの根拠として今後の議論に引用されることになるだろう。
詳細はGemma has passed a billion downloads, Google saysを参照していただきたい。