8月19日、Dataconomyが「Wall Street warns AI spending boom could trigger credit event」と題した記事を公開した。AIインフラへの巨額投資がフリーキャッシュフローをマイナスに押し込み、オフバランス債務が3兆ドルに膨らむ中、ウォール街のファンドマネージャーの38%が「ハイパースケーラーのAI設備投資」をシステミックなクレジットイベントの最大リスク要因として名指しした。単なる「バブル懸念」にとどまらず、信用市場全体への波及を視野に入れた警告として注目される。
なぜ今この警告が出るのか
AIインフラ投資の規模が「自己資金で賄える限界」を超え始めているからだ。主要テック企業はクラウド収益の成長が続く一方で、設備投資のペースがその収益増加を上回る速度で拡大しており、調達した資金が債券市場や信用市場に依存する構造へと移行しつつある。
Microsoftの現状はその象徴だ。手元資金770億ドルに対し、負債は1,290億ドル、今年のAI設備投資計画は約1,900億ドルに上る。投資のための債券発行が急増すれば、それ自体が信用市場へのプレッシャーとなりうる。ハイパースケーラー全体で同様の構図が広がれば、金利上昇局面での信用コスト増加やリファイナンスリスクが連鎖的に高まる。ウォール街が懸念するのはまさにそのシナリオだ。
「クレジットイベント」とは、企業や国家がデフォルト(債務不履行)に陥るなど、信用市場に連鎖的な影響を与える重大な信用リスクの顕在化を指す用語だ。過去には2008年のリーマンショックに際して起きたような大規模な信用収縮が典型例として知られる。
AIへの設備投資がリスク要因の首位に
バンク・オブ・アメリカが8月に実施した「グローバル・ファンドマネージャー調査(Global Fund Manager Survey)」によると、回答者の38%が「ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)のAI設備投資」をシステミックなクレジットイベントの最も可能性が高いトリガーとして挙げた。これは2ヶ月連続で首位となる結果だ。2位はプライベートクレジット(23%)、3位は政府債務(18%)が続いた。
この調査は8月7日〜13日にかけて、合計5,810億ドルを運用する203名の投資家を対象に実施された。
数字で見る「前例のない規模」の投資
主要テック企業の2026年の設備投資計画は以下の通りだ:
- Alphabet(Google):1,950億〜2,050億ドル
- Amazon:約2,200億ドル
- Meta:1,300億〜1,450億ドル
- Microsoft:直近の四半期だけで410億ドルを支出
Janus Hendersonの試算では、上記4社の2026年の設備投資計画の合計は7,300億〜7,600億ドルに達し、そのうち4,300億ドルが下半期に集中する見通しだ。
問題はその資金の出どころだ。モルガン・スタンレーによると、主要データセンター事業者5社のフリーキャッシュフローは2025年の1,870億ドルから、2026年にはマイナス28億ドルに転落すると予測されている。AlphabetはすでにAIインフラへの投資拡大により直近四半期で59億ドルのマイナスを記録した。
さらに深刻なのが「オフバランス債務」の問題だ。ウォール・ストリート・ジャーナルの分析によると、主要テック企業はバランスシートに計上されていないAIインフラ関連の義務を総額約3兆ドル抱えており、うち1兆2,000億ドルはまだ開始していないリース契約だという。
「投資が収益を超えている」という構造問題
モルガン・スタンレーは、ハイパースケーラーのAIインフラ投資が、その投資から生まれる収益を上回るペースで増加していると指摘した。同社クレジット戦略チームは2026年のAI関連グローバル債券発行額を約6,000億ドルと予測している。
独立系クレジットリサーチ会社のCreditSightsは別途、ハイパースケーラーの設備投資が2026年に前年比約3,000億ドル増加し、3年連続で60%超の成長率になると推計した。
一方でクラウド事業自体の成長は続いている。直近の実績ではAzureが40〜45%増、AWSが37%増、Google Cloudが82%増と堅調だ。市場の焦点は、このクラウド成長がAIインフラコストの急増を支えられるかどうかに移っている。
興味深いのは、調査参加者の楽観論だ。投資家の71%は「今年中にハイパースケーラーがCapex(設備投資)削減を発表しない」と見ており、この数字は7月の61%から上昇している。"AIバブル崩壊"への恐れを持ちながらも、各社が投資ペースを落とさないと大多数が予想している構図だ。
日本企業・投資家にとっての意味
この問題は米国市場にとどまらない。ハイパースケーラーへの部品・素材供給や、データセンター建設・電力インフラで深く関与する日本企業にとっても、投資規模の急変動や信用市場の収縮は直接的なリスク要因となりうる。また、グローバルな債券市場やクレジット市場への波及は、日本の機関投資家が保有するポートフォリオにも影響しうる。AI投資の「持続可能性」は今や純粋なテック業界の問題ではなく、マクロ経済全体の論点になりつつある。
※編集部の考察
詳細はWall Street warns AI spending boom could trigger credit eventを参照していただきたい。