8月19日、The Next Webが「Anthropic's AI watermark already has removal tools」と題した記事を公開した。AnthropicがClaudeに導入したAIウォーターマークに対し、公開から数日で除去ツールが相次いで登場し、そのうちの一つがGitHubで14,000スターを超えた。この爆発的な反響は、ウォーターマークという手法の限界と、規制への開発者コミュニティの本質的な不信感を浮き彫りにしている。
公開5時間で作られた除去ツールが14,000スターを獲得
8月2日、AnthropicはClaudeの出力にウォーターマークを埋め込む機能を全世界向けに展開した。仕組みはシンプルで、複数の候補語が同等に使える文脈では、統計的に偏った単語選択をすることでパターンを埋め込む。読者には判別できないが、機械的に検出できるという設計だ。
これに対する反発は即座だった。米Googleトレンドにおける「AI watermark remover」の検索量は、前週比60%増を記録した(Business Insider報道)。一部のClaude有料ユーザーはこの機能を理由に解約した。
最も注目を集めたのは、パリ在住の起業家Guillaume Meyerが公開したオープンソースプロジェクト「Watermarks Remover」だ。Anthropicのアナウンスから数日後にリリースされ、GitHubスターは14,000を超えた。Meyerが最初のバージョンを作るのにかかった時間は約5時間だったという。
ツールの動作は、隠し文字やメタデータを除去した上でテキストを書き直し、単語選択のパターンを撹乱するというものだ。ただし、ウォーターマークの完全な除去を保証するわけではない。
Meyerはコンテンツの帰属表示そのものには賛成の立場だが、手法に異議を唱えている。
「私はコンテンツの帰属表示には賛成だ。反対しているのはウォーターマーキングという手法に対してであり、そこには大きな違いがある」(Guillaume Meyer、Business Insiderより)
彼が問題視するのは、Claudeが全文を生成したケースと、軽く編集を手伝っただけのケースを区別せず同一のマークが付く点だ。「著者性を二値で扱っている」とし、「本物の問題に対する間違った答えだ」と述べた。
他の開発者も追随
Meyerだけではない。AI教育者のSabrina Ramonov氏はXで、ClaudeとChatGPT両方のウォーターマークを除去するブラウザベースの無料ツールを公開したと発表した。
「AIウォーターマークが罰するのは普通のユーザーであり、悪意のある者ではない」(Sabrina Ramonov、Xより)
このツールはテキスト・PDF・Wordドキュメント・Webページ・画像・データファイルに対応すると主張している。
東京在住の開発者Ansh Aneja氏は、投資家Paul Grahamの投稿を読んだ当日にClaudeに特化した除去ツールを開発。その後「MarkScrub」というローカル実行のオープンソース版をリリースした。初期バージョンは1日で8,500ユーザーに達したと主張しているが、この数字はBusiness Insiderが確認できていない。
なぜ止められないのか
除去ツールがこれほど短期間で複数登場した背景には、ウォーターマークという手法そのものの構造的な脆弱性がある。研究者たちはその限界を一貫して指摘している。
ETH Zurichのセキュリティ研究者Thibaud Gloaguen氏は「ウォーターマークを除去する方法は常に存在し続ける」と断言。文章を丸ごと言い換えるだけでマークは消えると述べた。
Anthropic自身も同様の限界を認めている。大幅に書き直せばウォーターマークは消え、その時点でそのテキストを「AI生成」と呼ぶことが妥当かどうか自体が議論になる、としている。
また、短い文章・固有名詞・コード・数式などバリエーションの余地が少ない内容では、そもそもウォーターマークが弱くなるか付かない。
Maastricht大学のKonrad Kollnig准教授は問題をより直接的に述べた。
「検出ツールが公開された瞬間に、誰でもAI生成コンテンツを確認できるようになり、ウォーターマークを除去するツールも作れるようになる」(Konrad Kollnig、Business Insiderより)
Anthropicは次期モデルのリリースと合わせて公開の検出APIを提供する予定だが、時期は未定だ。
法的グレーゾーン
技術的に止められないとすれば、法的手段による歯止めは機能するのか。現状では、その答えも明確ではない。
EUのAI法(EU AI Act)はAI事業者に対しマーキング義務を課しているが(Article 50)、第三者がそれを除去することを明示的に禁じていない。EU規制では、事業者のマーキングシステムが一般的な改変や意図的な攻撃に耐えうるものであることを求めている——これはあくまで事業者への義務であり、一般ユーザーへの制限ではない。
なお、EU AI Actは2024年8月に段階的な施行が始まっており、Article 50のラベリング義務は2026年8月の完全適用に向けて準備が進んでいる。日本国内ではAI規制法の整備はなお検討段階にあるが、EU域内でサービスを提供する日本企業には同法の適用が及ぶ可能性があり、ウォーターマークをめぐる法的議論は日本の開発者にとっても無縁ではない。
ストラスクライド大学のDmitri Roussinov上級講師は一点を付け加えた。除去ツール自体がAIを使ってテキストを再生成する場合、そのツールの提供者に新たなマーキング義務が生じる可能性があるという。
Anthropicの利用規約はAI生成コンテンツを人間の著作物として偽ることを禁じているため、ウォーターマークを除去して自分の文章として提出するユーザーはその規約に抵触しうる。ただし、ツールを作る・配布するだけでは現状、直接の法的リスクは明確でないとKollnig氏は述べている。
なお、GoogleやOpenAIも画像にウォーターマークを付与しており、それを除去するツールもすでに存在する。AI生成音楽にも同様の取り組みが進んでいる。
ウォーターマークの導入とその無効化をめぐる攻防は、AI業界全体がすでに直面している問題であり、EUのラベリング規制がその緊張をさらに高めている。
詳細はAnthropic's AI watermark already has removal toolsを参照していただきたい。