8月19日、The Next Webが「AI-drafted bills take longer to fix than to write」と題した記事を公開した。米議会でClaudeやChatGPTを使ったAI起草の法案が増加し、審査を担う専門家組織が処理しきれなくなっている実態を報じた内容だ。核心にある問題は、タイトルそのものが示している。AIが起草した法案を修正するのに、最初からゼロで書き直すより時間がかかっている——これが現場の声だ。
「起草より修正に時間がかかる」
冒頭の言葉は、米議会の下院立法顧問室(Office of Legislative Counsel)にAI活用を助言してきた人物がPoliticoに語ったものだ。
「AIが起草した法案を修正するのに、最初からゼロで書き直すより時間がかかっている」
下院立法顧問室は、議員のアイデアを実際の条文に仕上げる"品質管理"の要だ。市民社会・テクノロジー政策を専門とするNGO「POPVOX財団」のMarci Harrisは「議会の立法能力とはこの組織のことだ」と表現する。法案起草に関わった4人の議会スタッフがPoliticoに語ったところによれば、AIの利用はすでに下院で「日常的」になりつつある。あるスタッフは「完全に恐ろしい状況だ。しかし、まだ誰もそれを真剣に考えていない」と述べた。
AIが法案で犯す3種類のミス
元室長のWade Ballou(2016〜2024年在任)をはじめとする関係者は、AIが特定の弱点を持つと指摘する。
1. 財政的手法の区別ができない
ある資金が「税額控除」「税控除」「非課税」「補助金」のどれに該当するかをAIは正確に判断できない。この違いは制度設計上、根本的な差を生む。
2. 定義の抜け漏れ
「州(state)」を50州のみと定義した法案はワシントンD.C.や先住民族の自治区を連邦プログラムから排除してしまう。条文の定義ひとつで対象者が大きく変わる。
3. 条文引用の誤り
弁護士でテクノロジストのAri Hershowitzは、誤った法令参照を「何千ものバグを法体系に埋め込む確実な方法」と表現した。コードのバグと同じ構造の問題が、法律という書き換えコストの高いシステムで起きている。
こうした弱点は個別の凡ミスではなく、AIが法的文書の構造を根本的に理解していないことに起因する。議会の立法政策研究を行うシンクタンク「American Governance Institute」のDaniel Schumanは端的に言い切った。「AIは多くのことに使える。だが法律として制定したい法案を起草する能力はない」。
共和党のAnna Paulina Luna下院議員が6月、Claude(Anthropicが開発するAIアシスタント)で生成した修正案の要約文を使用したとして批判を受けた事例は、こうしたリスクが既に表面化していることを示す。議員は「修正案本文はAIで書いていない」と説明したが、草案段階での混入を防ぐ仕組みは現状ない。
組織の処理能力はすでに限界
業務量の数字を見ると、組織がいかに逼迫しているかがわかる。
第118議会(2023〜2024年)で顧問室が準備した法案は3万494本。実際に提出された1万564本の188%増に相当する。修正案も2万1,484件と、第114議会比で46%増だ。立法顧問Warren Burkeの3月の証言による。
人員は増えているが追いつかない。弁護士数は第116議会比で59%増の78人になった一方、平均経験年数は22%減、弁護士の58%が経験10年未満だ。
リクエスト数の増加ペースについて、Burkeは今年4月の別の証言で今議会開始後60日間の比較として72%増(5,623件対3,271件)を報告している。13カ月通算では5.7%増にとどまるが、Burkeは3月の証言で「近い将来、AIが我々の業務量をさらに拡大することを覚悟している」と明記した。
開示の問題も残る。あるスタッフは「AIを使う人は使ったと言わない傾向がある。まだタブー感がある」と語った。Politicoの報道時点で、上下院いずれかが採決した法案が完全にAI起草だったという事例は確認されていない。問題は「AIが起草した草案が顧問室に届いている」段階にある。
顧問室自身もAI評価を進める
顧問室は現在、下院が認可したMicrosoft Copilotの評価グループを組織し、法令調査などの効率化を模索している。
独自ツールもすでに存在する。Comparative Print Suiteは自然言語処理を使い、法案が米国法典(US Code)をどう変更するかを可視化するツールだ。Hershowitzはこれを「下院初のAIツール」と表現し、「確信を持って変更箇所を特定できない場合はエラーを返す。ハルシネーションがない」と述べた。
一方で、政府・議会向けソフトウェアを手がける民間企業GranicusのCharlotte Leeは矛盾を指摘する。「議員や利益団体はAIで自由に文書を書けるのに、立法顧問室は市販のAIを使えない。完全に不整合だ」。
問題が示す構造的リスク
Hershowitzはこの問題の先行きをこう表した。「もともと10だった問題が、100倍になる」。
人間がレビューする公的インフラにAI生成コンテンツが流れ込む構図は、立法分野に限らない。The Next Webは同時期に、NVDのCVEパイプラインにAI生成の偽脆弱性情報が大量投入された事例も報じており、関心のある読者は合わせて参照されたい。
※編集部の考察:立法・セキュリティ・学術査読など、「人間の専門家によるレビュー」を前提とした公的インフラ全般が、AI生成コンテンツの大量流入に対して同様の脆弱性を抱えている可能性がある。
詳細はAI-drafted bills take longer to fix than to writeを参照していただきたい。