8月19日、PYMNTSが「Visa and Mastercard Join Rain's Agentic Commerce Coalition」と題した記事を公開した。VisaとMastercardがRain社主導のAIエージェント決済連合「Agentic Payments Alliance(APA)」に創設メンバーとして参加したことを報じている。McKinseyが2030年までに3兆〜5兆ドル規模と試算するアジェンティック・コマース市場に向け、決済インフラの標準整備が業界横断で本格始動した。
「誰の代わりに、何を買うか」——未解決の認可問題が連合設立の核心
ステーブルコイン決済インフラを手がけるRainが、AIエージェントによる商取引(アジェンティック・コマース)の普及を目的とした業界連合「Agentic Payments Alliance(APA)」を立ち上げた。8月18日(火)に発表され、創設メンバーにはVisa、Mastercard、Fiserv、Circle、Solana、Remitlyが名を連ねる。
APAが設立された背景には、現行の決済インフラでは解けない根本的な問題がある。AIエージェントが人間に代わって決済を実行する場合、「そのエージェントが誰の意思を代行しているか」「どの範囲まで購買を許可されているか」を既存のプロトコルで表現する手段がほぼ存在しない。具体的には以下の3点が未解決のまま残っている。
- AIエージェントの認可(Authorization): エージェントが誰の代わりに、どの範囲で決済できるかをどう定義するか
- 不正検知(Fraud Detection): 人間ではなくエージェントが起点となる取引の不正をどう検出するか
- ロイヤルティ・リワードの扱い: ポイントや特典プログラムがエージェント経由の取引でどう機能するか
Rainは「こうした決定がバラバラに行われる前に、インフラを構築する当事者を同じ場に集める必要がある」として、APAを設立した経緯を説明している。
なぜ今、連合が必要なのか
AIエージェントが人間に代わって決済を実行するシナリオは、すでに「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題となっている。VisaのCEO Ryan McInerneyは直近の決算説明会でこう述べた。
「アジェンティック・コマースは"if"ではなく"when"だ。われわれは製品、サービス、プロトコルを構築し、エコシステムに必要なものを整えている。これは必ず起こるし、Visaにとってポジティブな追い風になる。」
VisaはすでにVisa Intelligent Commerceと呼ばれるアジェンティック決済向けの取り組みを公表しており、AIエージェントへの対応を製品戦略の中核に位置づけている。McKinseyの試算によれば、2030年までに世界のアジェンティックAIコマースは3兆〜5兆ドル規模に達するとされており、この市場規模がカード会社各社を動かす直接の動機となっている。
なお、PYMNTSの別記事によれば、Visa・Mastercardに加え、American ExpressやCapital Oneも独自にアジェンティック・コマース向けのインフラ(「レール」)開発を進めているとされる。APAへの参加は、各社が個別に走り出しかねない標準化競争に対して、共通の土台を先に確保しようとする動きとも読める。
Rainが持ち込む技術資産
Rainはこの1年で、エージェント決済向けの自社プロダクトを実際に構築してきた。代表的なものが以下の2つだ。
- Agent Control Layer: AIエージェントの権限と動作範囲を制御するレイヤー。どのエージェントが、どのユーザーの委任を受け、どの条件下で決済を実行できるかをプログラマブルに定義する仕組みで、OAuth的な委任認証の概念をエージェント決済に応用したものと位置づけられる
- Scoped Cards(スコープドカード): 利用範囲が限定されたカード型の決済クレデンシャル。既存のバーチャルカードが「使い捨て番号」による不正防止を主眼とするのに対し、スコープドカードは「エージェントが使える加盟店・金額・期間の範囲」をあらかじめ制限する点で、委任の粒度がより細かく設計されている
これらのプロダクトによって、Rainは「単独でカテゴリを作るのではなく、業界全体を招集できる立場を得た」と説明している。APAの公式情報はAgentic Payments Allianceのページから確認できる。
連合の運営方針
APAは特定の1社が所有するのではなく、創設メンバー全体によって運営される。各メンバーが共同でチャーターとミッションを策定する形式だ。
当面の活動として想定されているのは以下の通りだ。
- 共同リサーチとフレームワークの策定
- AIエージェントのアイデンティティ・認可に関する新興標準の実験
- アジェンティック・コマースに関する規制上の問題への政策提言
RainのCo-founder兼CEOであるFarooq Malikは、「エージェントが誰かの代わりに取引する方法を、単一の企業が決めるべきではない。それはレールを構築するプラットフォーム、ルールを設定する規制当局、そして実際にエージェントがどう使われているかに最も近いイノベーターが共同で決めるべきことだ」と述べている。
「誰の代わりに、何を買うか」という問いに答えるための標準がどこで、誰によって決まるか——その主導権争いが、APAという形で可視化された。
詳細はVisa and Mastercard Join Rain's Agentic Commerce Coalitionを参照していただきたい。