8月18日、PYMNTS.comが「UPS Automates 90% of Daily Customs Clearances With AI Agents」と題した記事を公開した。UPSがAIエージェントを活用して通関業務の自動化率を**21%から90%**に引き上げた大規模な事例で、1日あたりの処理件数が約9倍に膨らむ中、人員を増やさずにその負荷を吸収したという内容だ。
9倍の業務量増加を、人員増ではなくAIで吸収
米国がデミニマス免税制度(800ドル以下の小口輸入品を無税で通関させる制度)を廃止したことが、今回の変化の発端となった。廃止はトランプ大統領令によるもので、施行後から通関が必要な荷物の数が激増した。
UPS CEOのCarol Tomé氏は、同社の2025年第3四半期決算説明会でこの影響を「1日あたりの通関申告件数が10倍に急増した」と表現した。
数字で見ると、その変化の大きさは明白だ。
- 2025年3月:関税対象荷物が1日1万3,000件、うち人手を介さず通関できたのは21%
- 2025年9月:同11万2,000件に増加、人手なしで通関できた割合は90%
日次処理量が約9倍になった中で、自動化率は「5件に1件」から「10件に9件」へ跳ね上がった。人を増やして対応したのではなく、AIエージェントで吸収した点が核心だ。
分類・書類作成・エラーチェックを一気通貫で処理
UPSが導入したのは「エージェントAI(Agentic AI)」と呼ばれるシステムだ。従来のAIアシスタントが「質問に答える」ものだとすれば、エージェントAIは「複数ステップのタスクを自律的に完遂する」ものを指す。
通関では、商品の関税分類(HSコード割り当て)、貿易書類の作成、記載内容のエラーチェックという3つのステップが必要になる。これまで人が順番に手作業で行っていたこれらを、UPSのシステムは一連の連続プロセスとして処理する。
結果として、UPSの全輸送の97%が入国初日に通関を通過するようになったとUPSは発表している。また、商品分類の自動化により、購入時点での関税込み最終価格(ランデッドコスト)の予測精度も向上した。
「AIが補助」ではなく「AIが主体」で動く
他の多くの大企業AI導入事例では、AIは依然として人間の隣に座るアシスタントとして機能している。たとえば金融犯罪コンプライアンスの領域では、AIが定型的な監視アラートを調査・解決し、グレーゾーンの判断は人間の審査員が担うというモデルが一般的だ。
UPSの通関システムはそれより踏み込んでいる。AIがワークフロー全体を主体的に動かし、人間が介入するのはソフトウェアが処理できなかった残り約10%のケースに限られる。
保険請求処理やサプライチェーン全体のコンプライアンス業務など、ルールが明確でボリュームが大きい他の業務においても、この数字は一つの比較基準になりうる。
デジタルツインとRFID追跡で物理ネットワーク全体を可視化
通関自動化と並行して、UPSはネットワーク全体の可視化にも取り組んでいる。同社は、全施設・全輸送モード・荷物フローを接続した「デジタルツイン」(物理的なネットワークの仮想レプリカ)を構築中で、10分ごとにデータが更新される。従来、エンジニアチームが数カ月かけて行っていたネットワーク分析が、現在は半日で完了するようになったという。需要予測の精度は最大40%改善したとUPSは述べている。
また、米国内の配送ネットワーク全体にRFIDトラッキングを展開し、配送車両・施設へのセンサー設置と、5,500カ所以上のUPS Storeからの発送荷物へのタグ付けも実施した。3年前の展開開始以来、荷物の積み間違いは約70%減少している。このRFIDデータをAIシステムに投入することで、通関ソフトウェアはより精度の高いデータに基づいて判断を下せるようになった。
デジタルツインとRFIDの両セクションは通関自動化の直接的な主題からはやや外れるが、UPSがAIによる判断精度を支える基盤インフラとして整備してきた文脈として位置づけると、今回の自動化率向上がいかに多層的な取り組みの上に成り立っているかが理解しやすくなる。(※編集部の考察)
詳細はUPS Automates 90% of Daily Customs Clearances With AI Agentsを参照していただきたい。