8月18日、PYMNTS.comが「AI Labs Stop Competing on Smarts and Start Competing on Price」と題した記事を公開した。GPT-3.5相当モデルへのAPIコストが2022年から2024年にかけて約2年で280分の1以下に急落したことを軸に、OpenAI・Google・Anthropicの3大AIラボが一斉に価格競争へと軸足を移した今夏の動きを詳報している。なぜ「この夏」に各社が同時に動いたのか——その背景には、オープンソースモデルの台頭や推論効率の向上による構造的な圧力がある。
GPT-3.5レベルが2年で280分の1以下に
スタンフォード大学のAI Index 2025レポートによると、GPT-3.5相当のモデルへのクエリコストは、2022年11月の100万トークンあたり20ドルから、2024年10月には0.07ドルへと、約2年で280倍以上の価格下落を記録した。
ここでいう「トークン」とは、AIモデルが処理するテキストの最小単位で、数文字〜短い単語1つに相当する。各社はこのトークン単位で処理量に応じた従量課金を行っている。
VCのAndreessen Horowitz(a16z)は2024年からこの現象を追跡しており、「LLMflation」という造語で表現している。同社の分析によれば、同等の性能を持つモデルのコストは年間約10倍のペースで下落している。
この価格急落の背景には、複数の構造的要因が重なっている。まず、Meta の Llama や Mistral に代表されるオープンソースモデルの急速な性能向上により、クローズドモデルとの性能差が縮まり、商用各社への価格圧力が高まった。加えて、推論専用チップの普及やバッチ処理の効率化など、インフラコスト自体の低下も後押しした。閉鎖的なエコシステムに依存し続けることのリスクを感じた企業が自社推論基盤を整備し始めたことも、各社が価格で顧客を引き留めなければならない状況を加速させている。こうした複合的な圧力が、2025年夏の「同時多発的な値下げ」として表面化した。
3社が数週間以内に同じ方向へ動いた
OpenAIは最速・最安モデルであるGPT-5.6 Lunaの価格を80%引き下げ(100万入力トークンあたり1ドル→0.20ドル)。中間モデルのGPT-5.6 Terraも20%値下げ(2.50ドル→2ドル)した。一方、フラッグシップモデルのGPT-5.6 Solは5ドルで据え置きとなっている。なお、出力トークンの価格は入力の概ね5〜6倍程度となっているが、モデルごとに差異がある。OpenAIの価格詳細は公式APIプライシングページで確認できる。
Googleは7月21日にGemini 3.6 Flashを1.50ドルで投入した後、数週間以内に0.75ドルへ値下げ。8月13日にリリースしたGemini 3.7 Flashも同じ0.75ドルのイントロダクトリー価格を年末まで維持し、2026年1月1日から1.50ドルへ引き上げる予定とされている。Googleの最新モデルラインナップと価格はGoogle AI Studio の料金ページに掲載されている。
最も踏み込んだのはAnthropicだ。同社はClaude Sonnet 5を6月30日に100万入力トークンあたり2ドルで提供開始し、9月1日から3ドルへの値上げを公表済みだった。ところが8月10日、Anthropicはそのリリースノートにこっそり編集者注を追記し、値上げを撤回して2ドルを恒久価格とすることを発表した。予告済みの値上げを取り消すという異例の対応だ。Anthropicの料金体系は公式プライシングページで参照できる。
価格構造の二極化という本質的な変化
3社に共通するパターンは「下位・中位モデルの価格は下がり続け、最上位モデルは高値を維持する」という二極化だ。OpenAIの場合、最安モデルと最高価格モデルのスプレッドは、今回の発表だけで5対1から25対1へと一気に拡大した。
この構造は、かつてのブロードバンド普及期と重なる。ベースライン接続のコストが下がり続けることで、映像ストリーミングやクラウドコンピューティングが普及したように、下位モデルの低廉化が「使える用途の裾野」を広げる——という動きだ。メールの自動分類のような単純タスクから多段推論まで幅広い企業向けワークロードにおいて、2023年時点では採算の取れなかったスケールでのAI活用が現実的になりつつある。
一方で、各社が最上位モデルの価格を高水準で据え置く戦略は、単純なコスト削減競争とは異なる側面も持つ。高度な推論タスクや企業の基幹業務への組み込みにおいて、価格よりも信頼性・性能・サポート体制を優先する顧客層を囲い込むという意図が透けて見える。低価格帯でデベロッパーを獲得しながら、エンタープライズ向け上位モデルで収益を確保するという二層構造が、3社共通のビジネスモデルとして定着しつつある。
詳細はAI Labs Stop Competing on Smarts and Start Competing on Priceを参照していただきたい。