8月18日、The Next Webが「ByteDance signs a copyright pact with Hollywood's MPA to rein in its Seedance AI video tool」と題した記事を公開した。ByteDanceがハリウッドの業界団体MPAとAI著作権協定を締結し、AI動画・画像生成ツールに著作権保護の仕組みを導入することで合意した経緯を詳報している。
「設計上の欠陥」と呼ばれたSeedanceが、ハリウッドと握手
**ByteDanceがMotion Picture Association(MPA)**——ディズニー、ネットフリックス、ワーナー・ブラザース、パラマウント、ソニーといった米国主要スタジオの業界団体——との間で著作権に関する協定を締結した。
対象となるのは、ByteDanceのAI動画生成モデルSeedanceと、画像生成モデルSeedreamだ。Seedanceは2025年初頭に公開されたByteDanceの動画生成基盤モデルであり、Seedreamはその静止画版に相当する。両モデルはTikTok、動画編集アプリCapCut、画像生成アプリDreaminaのAI機能を支える基盤として機能している。DreaminaはByteDanceが展開する画像・動画生成に特化したコンシューマー向けアプリで、主にアジア市場で利用者を伸ばしている。SoraやRunway Gen-3といった競合AI動画ツールが欧米ユーザーを主なターゲットとしているのに対し、ByteDanceはこれらのプロダクト群を通じてグローバルかつ大規模なエンドユーザー層を抱えており、著作権リスクの波及範囲が広い点が業界の警戒を強めていた。
この合意に至った背景には、深刻な対立があった。Seedance 2.0の公開後、MPAはByteDanceへ使用差し止め通告書(cease-and-desist letter)を送付した。その文書の中でSeedanceを「著作権侵害を組織的に行うエンジン」と断じ、著作権違反が「バグではなく設計上の特徴」に見えると指摘していた。個別スタジオも独自に警告を発しており、ディズニーはマーベルやスター・ウォーズのキャラクターを含むバイラル動画を証拠として提示。日本でもアニメのルック・アライク(酷似した生成物)に関する個別調査が始まっていた。
協定が答えているのは「出力」の問題だけ
今回の合意の核心を理解するうえで重要なのは、MPAの訴えが2つの問題に分かれていた点だ。
- 出力の問題:Seedanceが既存の著作権キャラクターや有名人の肖像を生成してしまうこと
- 学習データの問題:ByteDanceがモデルの訓練にスタジオのコンテンツを無断で使用した可能性
今回の協定は、明らかに前者への対応として読み取れる。ByteDanceは最新バージョンのモデルに知的財産保護の仕組みを強化したと述べているが、具体的なガードレールの内容は双方とも開示していない。
記事は出力フィルタを「解決可能なエンジニアリング問題」と位置づける。モデルがアイアンマンの描画を丁重に断るようにすること自体は技術的に実現できる。しかし、そのモデルがアイアンマンを「知っている」のは、スタジオのコンテンツで訓練されたからではないか——その問いには、今回の協定は何も答えていない。
学習データの問題は現在、AI著作権紛争のあらゆる局面で争点となっている。Getty ImagesがStability AIを提訴した訴訟や、ニューヨーク・タイムズがOpenAIおよびMicrosoftを訴えた訴訟など、法廷闘争は各所で進行中だ。ByteDanceとの握手はその問題を解決しない。
ハリウッドにとっての意味
それでも、業界団体の視点から見れば、この協定は意味がある。
ここ数年、ハリウッドはAIに対して後手に回ってきた。OpenAIが法的・社会的圧力を受けてSoraアプリの提供を停止し、アカデミー賞がAI俳優・AI脚本を禁止したが、技術の進化速度に制度が追いつけない状況が続いていた。RunwayやPikaといった競合ツールに対してもMPAは警戒を続けており、今回のByteDanceとの合意はその布石とも読める。
米国の裁判所が容易に手の届かない中国企業から書面による約束を引き出したことは、MPAが今後他のAI動画生成企業に対して「ByteDanceでさえ応じた」と迫るための交渉カードになる。ByteDanceは、ハリウッドと法廷ではなく協定で向き合った最初期の主要AI動画開発企業の一つとなった。
「停戦合意」であって「和解」ではない
記事はこの協定を停戦合意(truce)と表現し、和解(settlement)とは明確に区別している。
- 具体的な条件は非公開であり、外部からガードレールの実効性を評価できない
- TikTok・CapCut・Dreaminaという大規模プラットフォームにまたがる執行は容易ではない
- ライセンス契約ではないため、スタジオはモデルの学習にコンテンツが使われた対価を受け取っていない
ハリウッドが選んだのは、「訴訟でByteDanceを屈服させる」という不確実な道ではなく、「今日時点で指差せるガードレールを交渉で得る」という実利的な姿勢だ。この協定が最終的にスタジオが望むライセンス体制へ発展するのか、それとも次のモデルが登場するまでの静寂を買うだけなのか——その答えは、Seedanceの次のバージョンが出るころに見えてくるだろう。
詳細はByteDance signs a copyright pact with Hollywood's MPA to rein in its Seedance AI video toolを参照していただきたい。