8月17日、The Next Webが「OpenAI's new ChatGPT feature logs your keystrokes and stores them in plain text」と題した記事を公開した。OpenAIがリリースしたChatGPTの新機能「Computer History」が、macOS上のキーストロークを記録し、暗号化なしのMarkdownファイルとしてローカルに保存する——そのプライバシー上の問題を報じている。さらに注目すべきは、OpenAI自身の公式ドキュメントがプロンプトインジェクションを含む複数のリスクを率直に列挙している点だ。
キーストロークを記録して「記憶」にする機能
Computer Historyは、macOSのアクセシビリティフレームワーク(支援技術向けのOS API)を通じて、クリック、キーストローク、キーボードショートカット、アプリの切り替えを記録し、ChatGPTが参照できる検索可能なメモリとして蓄積する機能だ。
スクリーンショットや画面録画、マイク入力、システム音声の取得はなく、プライベートブラウジング中も記録は行われない。Computer Historyは、以前OpenAIが試験的に展開していたChronicle(Codexの機能として画面キャプチャでコンテキストを構築していた)の後継にあたり、スクリーンショットからキー入力イベントへと取得方法を切り替えた形だ。
問題の核心:平文保存
機能の設計より直接的に問題となるのが保存形式だ。記録されたメモリファイルは、暗号化されていないMarkdown形式のテキストファイルとしてローカルに保存される。つまり、同一のmacOSアカウントで動作するプログラムであれば、どのアプリからでも読み取れる状態にある。
一時的なイベントファイルは48時間後に自動削除される。OpenAIはそのファイルを自社サーバーで処理するが、法的要請がない限り保持しないと説明している。
「学習には使わない」のグレーゾーン
OpenAIは、メモリファイル自体はモデルの学習に使用しないと明言している。ただし、後のチャットでメモリがコンテキストとして参照された場合、そのチャット内容はユーザーの設定によって学習データになり得る。「メモリは学習しない」が「メモリを参照した会話は学習するかもしれない」という構造だ。
OpenAI自身が警告する利用上のリスク
OpenAI自身のドキュメントが、珍しいほど率直にリスクを列挙している点も注目に値する。
- プロンプトインジェクションへの露出リスクが高まる(悪意あるコンテンツがキー入力を通じてChatGPTへの指示として機能しうる)
- コミュニケーションアプリでの使用は、関係者全員の同意がない限り推奨しない
- 健康、金融、個人データを扱うアプリは除外リストへの追加を推奨
記録対象からアプリやWebサイトを除外リストに追加する機能、メニューバーからの一時停止機能は提供されている。
利用できる条件と地域制限
Business・Enterpriseワークスペースでは、管理者が有効化し、さらに個別ユーザーが同意する必要がある。加えて「Memories」機能がオンになっていることが前提だ。
地域制限も設けられており、欧州経済領域(EEA)・スイス・英国ではこの機能は利用不可だ。GDPRの個人データ処理規定やEUのAI Actへの対応を意識した判断とみられる。
※編集部の考察:平文保存という設計判断は、エンジニアの目線では「なぜ暗号化しなかったのか」という疑問が真っ先に浮かぶ。ローカル保存であること自体はプライバシー上の配慮とも読めるが、同一アカウント上の任意プロセスから読み取り可能という事実は、マルウェアやサプライチェーン攻撃のリスクを直接高める。OpenAI自身がリスクを文書化しているにもかかわらず、保存形式の選択は慎重さに欠ける印象を与える。
詳細はOpenAI's new ChatGPT feature logs your keystrokes and stores them in plain textを参照していただきたい。