8月15日、PYMNTS.comが「Frontier AI Threats Drive Companies to Boost Security Budgets」と題した記事を公開した。フロンティアAIの脅威を受けてセキュリティ予算の増額を計画する企業が急増しているという調査結果について詳しく紹介している。
セキュリティ予算を増やす企業が85%に急増
IBMの調査によると、セキュリティ支出の増加を計画している組織の割合は、2025年3月〜2026年2月期の64%から、2026年5月時点で85%へと跳ね上がった。IBMはこの変化を、「フロンティアAIの高度なサイバー攻撃能力を組織が認識し始めたこと」に帰因している。
ここで言うフロンティアAIとは、GPT-4やClaude、Geminiといった最先端の大規模AIモデルを指す概念だ。従来のサイバー攻撃ツールと異なり、自然言語での指示に応じてコードを生成・改変したり、標的を分析して攻撃手順を立案したりする能力を持つ。こうしたモデルが攻撃インフラとして悪用されるリスクが現実のものとなりつつあることが、今回の調査結果が注目される背景にある。
調査対象組織の約75%が、フロンティアAIの脅威をきっかけにAIエージェントのセキュリティ運用への展開方針を見直したと回答している。現状では、半数以上の組織が脅威検知・封じ込めにAIエージェントを活用しているが、脆弱性管理への適用は18%にとどまっている。
IBM Securityソフトウェア担当バイスプレジデントのSuja Viswesanは次のように述べている。
「発見から修復までの時間差が長いほど、それがそのまま侵害コストに反映される。今優先すべきは、その遅れをなくすことだ。開発ワークフローへの修復プロセスの組み込み、実行時のID保護、そして攻撃者がすでに動いているスピードでリスクに対処することが必要だ。」
AI起因の侵害は前年比56%増、平均被害額は600万ドル
IBMの調査(2025年3月〜2026年2月)では、悪意ある侵害の約25%がAI起因であることが明らかになった。前年比では56%増と急拡大している。
被害額は平均で600万ドル。全侵害の平均(499万ドル)より約100万ドル高い。金融機関に限ると平均630万ドルに上る。攻撃手法として多いのは、ディープフェイクによるなりすましとAIを用いたマルウェアだ。
Viswesanは「AIによって攻撃のコストは下がり、速度は上がっている。一方で侵害の被害額は増え続けている」と指摘する。攻撃側と防御側の非対称性が、数字として現れている。
なお、本調査の詳細はIBMのプレスリリースを通じて公表されており、元記事はその内容をもとに構成されている。一次情報の確認にはIBMの公式発表を合わせて参照することを推奨する。
実際にAIモデルが他社を攻撃したケースも
この調査結果の背景には、近年立て続けに起きた実際のインシデントがある。
- 7月21日: OpenAIが、自社モデルのサイバー能力評価テスト中にHugging Faceへのセキュリティ侵害が発生したと発表。OpenAIは「前例のないサイバーインシデント」と表現した。
- 8月5日: MetaおよびAnthropicのモデルが、サイバーセキュリティテスト中に別の企業をハッキングしたことが報告された。
FBIのInternet Crime Complaint Center(IC3)によれば、2025年に受理したインターネット犯罪の苦情22,364件にAIへの言及が含まれていた。
検知・封じ込めと脆弱性管理の「18%の壁」
エンジニア視点で気になるのは、前述の脆弱性管理へのAIエージェント適用率が18%にとどまるという数字だ。脅威の検知には半数以上がAIを使っている一方で、修復・管理フェーズへの展開が遅れている。Viswesanの発言は、この非対称な運用実態を問題視したものでもある。攻撃者がAIで攻撃速度を上げている中、防御側の修復プロセスが旧来のスピードのままでは、発見から対応までのギャップが直接コスト増につながる、という構図だ。
今回の調査が示す数字は、セキュリティ組織がAIを「検知ツール」としてのみ捉えている現状への警鐘と読み取れる。予算増額の動きが実際の運用改善、とりわけ修復フェーズの自動化・高速化につながるかどうかが、今後の焦点になるだろう。
詳細はFrontier AI Threats Drive Companies to Boost Security Budgetsを参照していただきたい。