8月14日、RuntimeWireが「OpenAI acquired 4.2% of Cerebras before GPT-5.6 Ultrafast launch」と題した記事を公開した。OpenAIがGPT-5.6 Ultrafastのリリース直前、SEC開示書類へのひっそりとした記載からCerebrasの株式**4.22%**を実質ほぼ無償で取得していた事実が明らかになった。インフラ契約と資本関係を一体化させたその構造は、テック業界のパートナーシップの新たな形として注目に値する。
OpenAIが「ほぼ無償」でCerebrasの4.2%を取得
今回の核心は、OpenAIが7月にCerebrasのClass Nシェア 10,033,508株をワラント(新株予約権)行使によって取得したという事実だ。行使価格は1株あたり0.00001ドル、つまり全株の行使コストは合計約100.34ドルという名目上の金額に過ぎない。
この事実は、Cerebrasが8月12日の市場クローズ後に提出した四半期報告書(10-Q)の29ページ「Subsequent Events(後発事象)」の項に初めて記載されたものだ。OpenAI自身が公表したわけではなく、SEC開示書類から発掘された情報である。
8月13日時点のCerebrasのClass A株価(約229ドル)を基準にすると、この株式の含み価値は約23億ドルに達する。
なお、OpenAIが取得したのは「Class N株」と呼ばれる特殊クラスの株式だ。Cerebrasの株式構造では、一般投資家が市場で売買できる「Class A株」とは別に、議決権を持たず市場での直接売買もできない非上場・非議決権株式としてClass N株が設計されている。このような多クラス株式構造は、創業者や戦略的パートナーへの持分付与において経営支配権の希薄化を防ぐ手段として、近年のテックIPOで広く採用されている。OpenAIが保有するClass N株は、Class Aへ転換されてはじめて流動性が生じる。
なぜ「両者にとって得な構造」なのか
このワラントは2025年12月に締結されたOpenAI-Cerebrasのマスター関係契約(master relationship agreement)に起因する。契約の主な内容は以下のとおりだ。
- OpenAIは750メガワット分の推論処理容量を2028年までに段階的に購入することを約束
- 2030年末までにさらに1.25ギガワットを追加購入するオプションも保有
- 2026年1月にはOpenAIがCerebrasに対して約10億ドルの担保付き運転資金ローンを提供
ワラントはこの商業契約に連動した「インセンティブ」として設計されており、ローン実行後の1月に約445万株が、6月にさらに約557万株がベスト(権利確定)。OpenAIは7月にそのすべてを行使した。
Cerebrasの会計処理では、このワラントは「顧客ワラント資産」として1株82.02ドルで評価され、契約期間にわたって収益の減額として処理される。2026年上半期だけで8億2,290万ドルがOpenAI顧客ワラント資産として計上された。
構造は明快だ。Cerebrasは大型・長期の購入者を得ることで重い初期投資を正当化できる。OpenAIは低遅延の推論コンピュートを確保しつつ、購入マイルストーンの達成に連動してワラントがベストし、行使することで株式価値も得る。コンピュート調達と資本参加を一体化させた設計である。
まだ残っている約2,341万株
OpenAIが保有するワラントのうち行使済みは一部に過ぎない。残る23,411,518株分のワラントはまだ行使されておらず、ベスティングの条件は追加容量のマイルストーン、時価総額、または顧客支払い額に連動する。
仮にこのすべてがベストし、OpenAIが行使した場合、OpenAIのCerebras保有比率は現在の株式数ベースで約12.8%に達する見込みだ。行使コストは全2,341万株合わせて約234ドル。
Cerebrasの既存株主にとっては、OpenAIとの商業関係が深まれば深まるほど希薄化(ダイリューション)リスクが増すという側面がある。
「チップ購入者」が「株主」でもある構造の意味
今回の開示は、8月13日に限定プレビューとして公開されたGPT-5.6 Ultrafastの直前にあたる。同サービスはCerebrasのWafer-Scale Engine(WSE)アーキテクチャを使い、最大毎秒750トークン、標準処理層の最大14倍の速度を実現するとされている。WSEの特徴は、モデルの重みをチップ上のメモリに保持することで、プロセッサと外部メモリ間のデータ移動を最小化する点にある。
なお、記事には訂正も含まれている。OpenAI-Cerebrasの提携で最初にユーザーへ届いた製品は、2026年2月にリリースされたGPT-5.3-Codex-Sparkであり、GPT-5.6 Ultrafastが最初ではないという点だ。
OpenAIは「コンピュートの買い手」であると同時に「Cerebrasの株主」でもある。インフラ契約と資本関係が一体化したこの構造は、将来のM&Aを示唆するものではないと記事は指摘しているが、両社の利害が複雑に絡み合っていることは確かだ。
詳細はOpenAI acquired 4.2% of Cerebras before GPT-5.6 Ultrafast launchを参照していただきたい。