8月13日、BBCがMichael Fitzpatrick記者の署名記事「Why Japanese firms are being so slow to use AI」を公開した。労働力不足や生産性の低迷を抱えながらもAI活用が進まない日本企業の実態とその構造的背景について、複数の専門家・企業関係者への取材をもとに詳しく報じている。
職場でAIを使う日本人は8.4%
OECDが昨年末に公表した報告書によると、**職場でAIを活用している日本人労働者はわずか8.4%にとどまる。米国の50%、英国の32%と比較すると、その差は歴然だ。アジアでAI活用率が最も高いとされるシンガポールでは56%**の労働者が「週に複数回」AIを使っているという。
少子高齢化による深刻な労働力不足、G7最低水準の労働生産性という課題を抱える日本は、本来ならAI導入の最大の動機を持つはずだ。にもかかわらず、なぜこれほど遅れているのか。
「ミスをさせるより、欠員のままにする」
日本でAIシステムを販売するために現地オフィスを開設した米スタートアップKuse AIの共同創業者、Austin Xu氏はこう語る。
「AIのミスに対する許容度がほぼゼロ、特に顧客対応領域では。機械に任せるくらいなら、ポジションを空けたままにする、という企業が実際にある」
米国では、AIエージェントに広範な裁量を与えて生産性向上を図る企業がすでに登場しているという。Xu氏によれば、米国企業の姿勢は「まずやらせてみて、直す」であるのに対し、日本企業は十分な実績が示されるまでAIを信用しようとしない。
京都先端科学大学の国際経営学教授、Parrisa Haghirian氏も同様の見方をする。生成AIの信頼性がいまだ完全でない以上、日本ではメール作成・文書要約・情報収集といった低リスク業務にしか使われず、コアオペレーションや意思決定への活用は極めて限定的だという。
構造的な問題:ITインフラとデジタルリテラシー
AIの問題は文化だけではない。ハードウェアにも課題がある。
- 企業が保有するコンピューターシステムの約60%が導入から20年以上経過している
- 2030年までにITプロフェッショナルが約80万人不足すると予測されている
- 医療分野では電子カルテへの移行すら完了していない病院があり、ある病院関係者(匿名)は「紙の書類が恐ろしい速さで積み上がる。石器時代みたいだ」と語る
明治大学の教授で日本の社会システムと技術を研究する小笠原泰氏は「日本人はスマートフォンなどのガジェットを好むが、デジタルリテラシー全体は低い」と指摘する。
さらに同氏は、雇用維持の優先順位がAI推進を上回っている構図を説明する。
「政府はAIや再スキルを口にするが、現実には完全雇用の維持が最優先。AI化によって失業が生じることへのプレッシャーは、AI推進への圧力より強い」
政府の対応と現場の温度差
日本政府は昨年、AI推進法を制定し、規制を最小限に抑えた形でAI投資を促している。「世界で最もAIの開発・活用に友好的な国」を目標に掲げる。
財務省のデータでは、AIを何らかの形で導入済みと回答した企業の割合が5年前の**11%から75%**に増加したとしている。ただし批判的な見方もあり、「導入している」と言っても実際に使っているのは社内のごく一部の社員で、活用範囲も極めて限定的だという指摘がある。75%という数字はあくまで「何らかのAIツールを試験的にでも導入した」企業の割合と解釈すべきであり、冒頭のOECDが示す実際の利用者比率8.4%との乖離はその文脈で理解する必要がある。
現場レベルでは変化の兆しもある。大手総合商社・兼松では今年4月に入社した山口宇太氏のように「AIリテラシー」を評価されて採用された新卒社員がAIを積極的に活用している。ただし同氏自身も「複数ステップの業務を自律的にこなすAIエージェントは、日本ではほぼ聞いたことがない」と語る。
「痛みのない改革」を求める社会
小笠原氏はこう締めくくる。「日本社会は痛みのない改革を求める。だから抜本的な改革は難しい」。
AIへの懐疑は合理的な慎重さの面もある。しかし、労働力不足と生産性低迷という課題の深刻さを考えると、その慎重さがそのままコストになる側面も否定できない。
詳細はWhy Japanese firms are being so slow to use AIを参照していただきたい。