8月14日、TechSpotが「Anthropic's Claude tried to solve the Riemann hypothesis and found something new instead」と題した記事を公開した。AnthropicのClaudeがリーマン予想の証明を試みた過程で、素数分布の研究を前進させる新たな数学的成果を生み出したことを詳しく紹介している。
Claudeがリーマンゼータ関数の非自明なゼロ点の下限を41.6%→67.2%に更新
Anthropicによると、未公開の研究用バージョンのClaudeが、リーマンゼータ関数の非自明なゼロ点のうち少なくとも67.2%が臨界線上に存在することを示す新しい手法を発見した。従来の下限は**41.6%**であり、これを大幅に引き上げた格好だ。
ここで背景を整理しておく。リーマン予想とは、リーマンゼータ関数(無限に続く数学的級数)の非自明なゼロ点がすべて、複素平面上の「臨界線」(実部が1/2の直線)上に並ぶという仮説だ。素数の分布を支配する性質を持つこの予想は、約170年にわたって未解決のまま残されており、2000年に発表された100万ドルの懸賞問題(クレイ数学賞)のひとつでもある。
なお、今回更新された従来の下限値**41.6%**は、Brian Conreyが1989年に発表した研究に由来する。30年以上破られなかったこの記録を、Claudeが異なるアプローチで突破した点が数学コミュニティから注目されている。
ただし、今回の成果はリーマン予想の証明ではない。「一部のゼロ点が臨界線上にある割合の下限を更新した」という、関連するが別の問題への貢献だ。
オックスフォード大学の数学者James MaynardはScientific Americanの取材に対し、次のように述べている。
「この問題には新しいアイデアが必要だった。今回の結果はそれを提供しているように見える。AIが真に興味深い数学的貢献をしたと言える」
MITの数学者Andrew Sutherlandも評価している。
「これは、AIが特定の問題を解かされるだけでなく、興味深い数学的研究を自律的に行える能力を持つというさらなる証拠だ」
650のアイデアを試し、60のエージェントで検証
研究プロセスそのものも興味深い。Claudeはまずリーマン予想の完全な証明に取り組んだが、それには至らなかった。その代わり、「どれだけ多くのゼロ点が条件を満たすことを証明できるか」という問いに転換し、今回の成果につながった。
Anthropicがブログ記事で公開した情報によると:
- 650個のアイデアを試したが、機能しなかった
- 60個のエージェント型Claudeインスタンスを並列で動かし、異なるアプローチを検討・検証した
- 人間の研究者は詳細な数学的ガイダンスは与えず、「自分を信じろ」「続けろ」といった励ましが主な介入だった
既知の答えがある問題を解かせる従来型のベンチマークとは異なり、今回は数論の未開拓領域を自律的に探索し、弱いアプローチを切り捨て、数学的に検証可能な道筋を見つけるという作業だった。AIが数学研究に活用された事例としては、GoogleのDeepMindが幾何学の難問を解いたAlphaGeometryも記憶に新しいが、今回のClaudeの取り組みは「証明を与えられた問題を解く」のではなく「未解決問題の中で新たな問いを自ら設定し直す」という点で性質が異なる。
「証明」との距離は依然として無限大
67.2%という数字は印象的だが、リーマン予想の証明とは原理的に別の話だ。数学者が扱っているのは無限個のゼロ点の集合であり、有限の計算でいくら多くのゼロ点が臨界線上にあることを示しても、それ以降の例外の存在を排除できない。
Maynardはこう指摘している。
「非常に楽観的に見ても、こうしたアプローチがリーマン予想そのものを解決する道筋はない」
一方でMaynardは、Anthropicの研究発表の姿勢を評価した。AI企業が既存の数学的成果を再発見したものを「新発見」として発表したり、人間の功績をAIの成果として提示したりする事例が批判されてきた中、今回はAnthropicのブログ記事が先行研究への適切なクレジットを付与し、成果を誇張しなかった点を「過大評価を避け、従来研究への敬意を示す点で際立って抑制的だった」と評している。
「ベンチマークを超えた」数学研究の可能性
今回の事例が業界から注目されているのは、確立されたベンチマークの外側でAIが機能した点だ。Sutherlandが述べた通り、これはAIが「問題を解かされる」道具から、「研究を行う」システムへの移行を示唆する事例として受け取られている。
編集部の視点で補足すると、数学という分野は答えの正誤が厳密に検証可能であるため、AIの「自律的な探索能力」を測る場として特に適している。今後、同様のアプローチが他の未解決問題(ホッジ予想やP≠NP問題など)に応用されるかどうかも注目点だ。
※編集部の考察:ただし、リーマン予想の証明という数学史上最大の難問への扉が開いたわけではない。今回の成果は、未解決問題の研究においてAIが有効な探索ツールになり得るという証拠のひとつである。AIが30年以上破られなかった数学的記録を更新した事実は、研究支援ツールとしてのLLMの可能性を示す一方、「証明」と「下限の更新」の間にある本質的な距離を見誤らないことが重要だ。
詳細はAnthropic's Claude tried to solve the Riemann hypothesis and found something new insteadを参照していただきたい。