8月14日、The Decoderが「Deepseek ships improved V4 Pro, open-sources its agent software, and raises API prices」と題した記事を公開した。今回の発表で最も注目すべきは、エージェント開発者を直撃するAPI価格改定だ。キャッシュヒット料金がオフピーク時で約6倍、ピーク時で約12倍に跳ね上がり、同じファイルを繰り返し読み込むエージェント処理のコスト構造を根底から覆す。5月に実施した大幅値下げを部分的に覆すだけでなく、キャッシュヒットに限っては値下げ以前よりも高い水準に達している。価格改定・モデル強化・エージェントソフトのオープンソース化という三つの動きが同時に走っている点も見逃せない。
V4-Pro-0813:ベンチマーク数値は大幅改善、ただし上位勢との差は依然あり
DeepSeekのフラッグシップモデル「deepseek-v4-pro」エンドポイントが、正式ビルド V4-Pro-0813 に更新された。モデル名・パラメータ数・100万トークンのコンテキストウィンドウはそのまま据え置かれており、既存の統合はコード変更なしで動作し続ける。アプリ・Web上では「Expert Mode」として提供される。
新機能として、OpenAI Responses APIのネイティブサポート(Codex統合付き)が追加された。推論の深さは「low」「high」「max」の3段階で設定でき、DeepSeek自身は日常的なエージェント用途には中間の「high」を推奨している。
DeepSeek自社の比較表によると、ベンチマーク数値は以下のように改善している:
- Terminal Bench 2.1:72.1 → 87.9
- DeepSWE:12.8 → 62.7
複数のエージェントベンチマークでClaude Opus 4.8を上回った、としている。
※ 本文中で言及される「Claude Opus 4.8」および「Claude Opus 5(63)」は、Anthropicのバージョン体系における別ビルドを指す。DeepSeekのベンチマーク比較対象はOpus 4.8、Artificial AnalysisのIntelligence Indexの比較対象はOpus 5(スコア63)であり、異なるモデルを参照している点に注意が必要だ。

ただし、第三者機関のArtificial Analysisによる評価では、Intelligence Indexは45から53に上昇し、GLM-5.2と並んだ。それでもMuse Spark(57)、Qwen 3.8 Max(58)、Kimi K3(60)、Claude Opus 5(63)には届いていない。
今回の更新は、下位モデルの追い上げに対応した側面もある。7月末にリリースされたV4 Flash(update 0731)が、Artificial AnalysisのIntelligence IndexでProプレビューに事実上並んでいた。フラッグシップとしての差別化が急務だった形だ。
なお、新ビルドのモデルウェイトはまだ公開されていない。4月のプレビュー版は引き続きHugging Faceで入手可能だ。
エージェントソフト「Harness」をMITライセンスでオープンソース化
モデル更新と同時に、**Deepseek Harness v0.1** がDeveloper PreviewとしてMITライセンスのもとで公開された。OpenAIのCodexやClaudeのコーディングエージェントに対抗するソフトウェアとして位置づけられており、DeepSeek APIと組み合わせて使うことが前提の構成だ。
内部的には新たに公開された**Cordisプラグインシステムを採用している。Cordisはイベント駆動型の依存性注入フレームワークで、ツール・サンドボックス・セッション管理・UIに至るまですべての機能をスワップ可能なプラグインとして実装できる設計になっている。すべてのプロンプト・ツール呼び出し・実行結果を記録する継続セッションログ**を持ち、実行の再開・ブランチ・リプレイにも対応する。
「Minimalモード」ではシェルとファイルエディタのみに機能を絞り込め、DeepSeek自身がベンチマーク実行にこの設定を用いている。起動はnpx経由でローカルWebインターフェースを通じて行う(互換性の問題があると公式も注意を促している)。
プロジェクトを率いるのは、2026年3月に量的取引会社Jane StreetからDeepSeekに移籍したCui Tianyi氏だ。Jane Streetは高頻度取引・アルゴリズム開発で知られる技術志向の強い金融機関であり、その出身者がAI開発の最前線に立つという構図は、DeepSeekの組織的な特徴をよく示している。8月上旬にベータテスターを募集したところ、3日間で712プロジェクトが応募した。
API価格改定:キャッシュヒットのコストが特に跳ね上がる
新料金は8月16日16:00(UTC)から適用される。ピーク時とオフピーク時の二段階制で、ピーク時間帯はUTC 1:00〜4:00および6:00〜10:00(中国の営業時間帯に対応)。欧州ユーザーにとっては午後のほぼ全時間帯がオフピーク料金の対象となる。

価格変動をまとめると、V4-Proについて:
- オフピーク入力:$0.435 → $0.66/100万トークン
- オフピーク出力:$0.87 → $1.98/100万トークン
- ピーク時はこれらがさらに倍($1.32・$3.96)
エージェント開発者にとって最も影響が大きいのがキャッシュヒット料金だ。
※ プロンプトキャッシュとは、同一のプロンプト先頭部分(システムプロンプトや参照ファイルなど)を再利用する際に、再計算を省いて低コストで処理する仕組みだ。エージェント処理では同じコンテキストを何度も参照するため、キャッシュヒット料金の変動がランニングコストに直結する。
オフピークで$0.003625から**$0.022へ、ピーク時は$0.044**へと跳ね上がる。元記事に記載されている旧・新料金の数値をそのまま対比すると、オフピーク時で約6倍、ピーク時で約12倍の値上がりとなる。同じファイルを繰り返し読み込むエージェント処理では、この部分のコスト増が直接利いてくる。
今回の値上げは5月に実施した値下げを部分的に覆すもので、キャッシュヒットに関しては値下げ以前よりも高い水準になっている。DeepSeekは現在、新規資本調達を進めており、IPO(新規株式公開)の準備も進めている段階だ。
詳細はDeepseek ships improved V4 Pro, open-sources its agent software, and raises API pricesを参照していただきたい。