8月11日、Vercelが「DeepSeek overtakes Google on volume, cost per token falls 13.6%」と題した記事を公開した。Vercel AI Gatewayを通過するトークントラフィックのデータから、2026年7月時点のLLM市場の勢力図が鮮明に浮かび上がる内容だ。量・価格・収益の三軸で、それぞれ異なるプレイヤーが優位に立つ非対称な市場構造が確認できる。
Vercel AI Gatewayは、本番アプリケーションとAIラボの間で月間数十兆トークンをルーティングするプロキシ基盤だ。そのトラフィックデータは、企業がどのモデルに実際にカネと処理量を振り向けているかを示す一次情報として機能する。今回の「August 2026 Production Index」は7月分のデータに基づくレポートであり、市場構造の変化が複数の軸で同時に起きている。
DeepSeekがGoogleを抜き、トークン量2位に浮上
最大のトピックはDeepSeekの台頭だ。
4月時点、GatewayのトークンボリュームはGoogleが約40%を占め、DeepSeekは1%未満だった。それが7月には逆転し、DeepSeekが約25%、Googleは11%まで後退した。DeepSeekのシェアはGoogleの2倍以上に達した。
特筆すべきは、DeepSeekの最廉価モデルであるV4 Flash単体で、Googleの全モデルを合計したトークン量を上回ったという点だ。V4 FlashはGateway全体の約5分の1のトークンを処理し、2位のモデルより70%多い。
この逆転はコンシューマー向けタスクに集中している。Googleのパーソナルアシスタント向けトークンシェアは1か月で半減以下になり、その大半がDeepSeekへ流れた。
一方で、DeepSeekの収益シェアはほとんど動かなかった。量は取ってもカネは取れていない——これが市場の非対称性を示す核心的なデータだ。
Anthropicは支出の65%を30%のボリュームで獲得
量と収益の乖離は、Anthropicを見るとさらに鮮明になる。
7月のGateway支出におけるAnthropicのシェアは65.1%、対してトークンボリュームのシェアは30%に過ぎない。Anthropicの1トークンあたりの平均単価は、他の全ラボの平均の4.4倍(6月時点では3.4倍)で、この格差はむしろ拡大している。
Anthropicには安価なモデルがない。同社で最も安いHaiku 4.5でさえ、Gateway平均単価の約3分の2の水準だ。OpenAIのGPT-5-Nanoは平均の6分の1、DeepSeekのV4 Flashは16分の1で動いている。
コーディングエージェントというGateway最大のユースケースでは、Anthropicが支出の80%超を占める。モデルの切り替えはAI Gateway上では1行の変更で済む(ベンダーロックインは技術的には存在しない)にもかかわらず、Anthropicはシェアを維持し続けている。これは「安価なモデルでは代替できないタスクがある」という現実を反映している。
7月にはClaude Fable 5(Anthropicが2026年にリリースしたフロンティアモデルで、同社のClaudeシリーズの最上位に位置する)が、輸出規制による3週間の停止から復帰し、Gateway支出の13.2%まで急成長した。この停止は、米国の対中輸出規制を含む半導体・AI関連規制の影響によるものとされており、提供地域・チャネルに制限が生じていた。注目すべきは、復帰後にFable 5を使ったチームの10人中9人が、停止前に使ったことがなかったユーザーだという点だ。ワークロードは戻ったが、顧客は入れ替わっていた。
トークン単価は13.6%下落——しかし支出は増加
7月はトークン量が59%増、支出は37%増、平均単価は13.6%低下した。
価格が下がった主因はモデル選択のシフトだ。月に1000万トークン以上を処理したチームのうち、4分の3がモデルミックスを10%以上変更し、5分の3が25%以上変更した。安価なモデルへの移行が価格下落を引き起こしている。
なお、6月のモデル構成を固定して試算すると、単価はほぼ横ばいになるという。つまり価格競争が起きているのではなく、企業が安いモデルを選んでいるだけだ。
7月のトークンの81%は、6か月前にはGateway上に存在しなかったモデルで処理された。市場の入れ替わりの速さを端的に示す数字だ。オープンウェイトモデルはGateway全体のトークン量の3分の1超を占めるが、支出シェアは約9セント/ドル(フロンティアモデルの7分の1程度の単価水準)にとどまっている。
画像・動画メディアの首位も交代
テキスト以外でも勢力図が変わった。
- 画像生成:6月首位のOpenAI GPT Imageを抜き、GoogleのNano Banana(※元記事記載の名称。Gemini 3.1 Flash Lite Imageを主力とするパッケージとして紹介されている)が**45%のシェアで首位に。GPT Imageは42%**で2位。
- 動画生成:ByteDanceのSeedanceが生成本数・支出の両方でトップ。6月のボリュームリーダーだったxAIのGrok Imagineは2位に後退。中国系ラボが動画支出の約7割を占める。
データの読み方
このレポートはVercel AI Gatewayの匿名・集計ルーティングデータに基づく。「Volume」はルーティングされた全トークン数、「Spend」はラボの公表定価ベースの換算値、「Price per token」は支出÷量で算出される。オープンウェイトとしてカウントされるのはDeepSeek、MiniMax、Moonshot、Z.aiの4社だ。
詳細はDeepSeek overtakes Google on volume, cost per token falls 13.6%を参照していただきたい。