8月11日、Futurismが「AI Investors Are Suddenly Quaking in Their Boots」と題した記事を公開した。AIへの過剰投資がもたらす市場リスクと、ヘッジファンドの急落が示すバブル懸念の実態について詳しく報じている。
AI株に集中投資したヘッジファンドが急落
ドイツ人AI研究者でヘッジファンドマネージャーのLeopold Aschenbrennerが、Wall Streetにおける「AI集中投資」リスクを象徴する人物として注目を集めている。
Aschenbrennerは24歳にして、AIインフラ株へのレバレッジドベット(借入金を活用した高リスク投資手法)を主軸としたファンドを運用していた。同ファンドは運用資産規模が約350億ドルとされていたが、7月のテック株急落局面でその多くが毀損した。なお、350億ドルはファンドの預かり資産規模を示す数字であり、全額を失ったわけではない点には注意が必要だ。
Aschenbrennerはオープンソースのシリコンバレー界隈でも著名な人物で、OpenAIの安全チームを離れた経緯やAGIに関する長文レポート「Situational Awareness」でも知られる。
2008年金融危機以来、最悪の月
Aschenbrennerのファンドの損失は個人的な事例にとどまらない。ヘッジファンドのデータ調査会社Hedge Fund Researchの新たなデータによれば、テックファンド全体が7月に7%下落し、これは2008年のリーマンショック以来、最悪の下落幅だったとTelegraphが報じている。
Aschenbrennerのファンドと類似したポートフォリオを持つヘッジファンド「Value Aligned Research Advisors(VARA)」も、7月単月で44%の下落を記録した。
Erlen Capital Managementのマネージングパートナー、Bruno Schnellerはこう語る。
「バリュエーションが高止まりし、ポジションが集中しているとき、売買の方向性が正しいか間違っているかの差は、異常なほど大きくなり、しかも非常に速く顕在化する。テクノロジーに特化した戦略はモメンタム(価格上昇トレンドが継続しやすい性質)とナラティブ(市場参加者が共有する相場観・成長ストーリー)が一致しているときは破格のリターンを生むが、条件が変わった瞬間、レバレッジによって増幅された急激な巻き戻しが起きる」
問題の本質:AIは「顧客から稼いでいない」
市場の動揺よりも深刻なのが、AIビジネスモデルそのものへの疑問だ。
Apollo(米大手資産運用会社)のチーフエコノミスト、Torsten Slokはブログ投稿の中で、AIモデルを提供する企業を含む最大の利益享受者たちが、「顧客から稼いだ利益」ではなく「投資家から調達した資本」によって収益を支えている実態を指摘した。
Slokの言葉を借りれば、AI企業は価値あるプロダクトを提供することで稼いでいるのではなく、「赤字を垂れ流しているレイヤーが調達した資本」によって上流の利益を作り出している構造だ。
「資本はしばらくの間ギャップを埋めることができるが、永続はしない。リスクはここにある。AIのエンドユーザーに十分な速さでROI(投資対効果)が現れ、上流の利益率を支えている支出を持続できるかどうかだ」
GoogleやMicrosoftなど大手テック企業が示す**CapEx(設備投資額)の上昇予測**への懸念も重なり、AIへの投資持続可能性に対する警戒感は高まり続けている。CapExとは、データセンターやGPUなどインフラ整備に投じられる大規模な資本支出を指し、AI事業の収益化が遅れるほどその回収リスクは大きくなる。
ファンドは回復、しかし持続性は未知数
Aschenbrennerのファンドはその後、ポジションを強制的に解消・大量売却したのちに回復しており、4億ドルの新規投資に動いているとBloombergは報じている。
ただし、高いレバレッジをかけたAI株市場がいつまで持つかは「誰にもわからない」というのが現状だ。今回の急落が一時的な調整なのか、より構造的な転換点なのかを判断するには、AI企業の収益化の進捗を継続的に見極める必要がある。
関連する動向として、AI投資をめぐる議論は以下のような文脈とも接続している。
- Goldman Sachsによる「AIへの過剰投資」警告レポート(2024年)
- Sequoia Capitalによる「AIの収益化ギャップ」分析
- Leopold Aschenbrenner「Situational Awareness」レポート
詳細はAI Investors Are Suddenly Quaking in Their Bootsを参照していただきたい。