8月11日、Ciscoが「Build agentic networking experiences with Cisco MCP servers」と題した記事を公開した。CiscoがMeraki・Catalyst Center向けに公開したMCPサーバーを使い、AIエージェントをネットワーク運用ワークフローに組み込む方法について解説している。
「Wi-Fiが遅い」という曖昧なチケットを変える
ネットワークサポートの現場では、問題の修正よりも「何が問題なのかを特定すること」の方が時間を食う。ユーザーからヘルプデスクへ、ヘルプデスクからネットワークチームへ、チケットが手渡されるたびにコンテキストが失われ、エンジニアが原因ではなく症状を追い続ける——そんな構造的な非効率を、AIを使って崩せないか、というのがこの記事の出発点だ。
CiscoはMeraki・Catalyst Center向けにModel Context Protocol(MCP)サーバーを新たに公開した。MCPとは、AIエージェントが外部ツールやデータソースに接続するための標準プロトコルで、Anthropicが提唱し昨今急速に普及しつつある。
このMCPサーバーを使うと、ServiceNowのようなサービス管理プラットフォームに組み込まれたAIワークフローが、ネットワークデータに直接アクセスできるようになる。たとえば「会議室でビデオ通話が途切れる」というチケットが起票された際、L1アナリストは以下のような問いにAIの助けを借りて即座に答えられる。
- 問題は特定のユーザー・デバイス・APに限定されているか?
- 他のユーザーも同じ問題を経験しているか?
- そのAPは正常に稼働しているか?
- 認証・カバレッジ・接続性に原因を示す兆候があるか?
ネットワークチームに渡るチケットには、より根拠のある初期診断が添付される。エンジニアは基本情報の収集に時間を使わずに済む。
ホスティング版 vs オープンソース版:何を選ぶか
Ciscoはこのサーバーをホスティング版とオープンソース版の2形態で提供している。どちらを選ぶかは、組織の統制要件によって変わる。
ホスティング版Meraki MCPは、Ciscoがサービスを運用管理する最小摩擦の選択肢だ。サーバーの構築・運用・更新が不要で、ネットワーク対応チケットトリアージや自動レポートといったユースケースを素早く試せる。
オープンソース版Meraki MCPは、自組織の環境でコードを動かし、内部実装を確認・カスタマイズしたいチーム向けだ。セキュリティポリシーによってLLMの処理を自社管理モデルに限定しなければならない場合や、運用データを外部ベンダーに送れない場合に有効な選択肢となる。ただし、Meraki自体はクラウド管理型のDashboardであるため、Merakiのライブデータにアクセスする際はDashboardへの接続が引き続き必要になる点に注意が必要だ。
Catalyst Center MCPはオープンソース版のみの提供となっている。元記事にはホスティング版に関する記載がなく、現時点でホスティング提供の有無は明確にされていない。ローカル展開を前提とした構成が可能で、ネットワークインベントリ・デバイスヘルス・無線品質・コンプライアンスなどのデータにアクセスできる。AIシステムとCatalyst Centerを同一のネットワーク境界内に閉じ込める運用(エアギャップ環境)にも対応できる。規制産業・政府機関など厳格なデータ主権要件を持つ組織で特に有効だ。
既存のCisco AI Assistantとの使い分け
Cisco製品にはすでにCisco AI Assistantが存在する。記事ではその使い分けを明確に示している。
Use AI Assistant when the work starts in the Cisco product. Use MCP when the work starts in the workflow your organization is building around the product.
(Cisco製品の中で作業が始まるならAI Assistantを使え。ワークフローが製品の外側から始まるならMCPを使え)
MCPはCisco製品の外側、つまり既存のヘルプデスクツール・社内ポータル・カスタムエージェントなどにネットワークインテリジェンスを持ち込む用途に向いている。
記事が示す具体的なサンプル出力例
記事にはMeraki MCPサーバーを通じたネットワークデータを使ってAIアプリケーションが生成した、MX WANヘルスレポート(影響サイト・フェイルオーバー・パケットロス・VPNリスクを整理したビュー)と異常検知ビュー(検出されたWAN問題と推奨調査アクション)の2種類のサンプル出力例が掲載されている。これらはMCPサーバー単体が出力するUIではなく、MCPサーバー経由のデータを活用してアプリケーション側が生成したものだという点は明記されている。
ネットワーク運用へのAIエージェント組み込みは、MCPという共通プロトコルの普及とともに実装の敷居が下がってきている。Ciscoがホスティング・オープンソースの両形態で提供することで、組織の統制要件に応じた選択肢が広がった形だ。MCPに対応するネットワーク製品・プラットフォームが今後さらに増えていけば、Networkingドメインはエージェント型AIの主要な活用領域の一つとして定着していく可能性がある。
詳細はBuild agentic networking experiences with Cisco MCP serversを参照していただきたい。