8月9日、Runtime Wireが「Denmark adds oral defenses to 9,000 take-home essays as AI cheating spreads」と題した記事を公開した。AIを使った不正行為の蔓延を受け、デンマークが約9,000人の高校生を対象とするテイクホーム課題に口頭試問を義務付けた措置について詳しく紹介されている。
「提出物だけでは証拠にならない」——デンマークが下した判断
デンマーク教育省は8月6日、上級中等教育課程(日本の高校に相当)の学生が自宅で執筆する大型課題「storre skriftlige opgave(SSO)」に対して、口頭試問(oral defense)を義務付けると命じた。SSOは毎年約9,000人の学生が取り組む課題であり、今回の措置はAI生成ツールの普及によって「自宅課題の信頼性が根本的に崩れた」という認識に基づくものだ。
口頭試問の目的は、誰がタイプしたかを証明することではない。学生が提出した論文の根拠・前提・結論を、ツールなしで自分の言葉で説明できるかどうかを測ることにある。チャットボットで生成した文章を事前に学んで答えることも理論上は可能だが、それでも「理解しているか否か」という新たな評価軸が加わる点が重要だ。
国内調査が政策を動かした
この措置の引き金となったのは、デンマーク評価機構(EVA)が2025年2月に公表した全国調査だ。対象となったのは、stxおよびhhx課程の最終学年生——高校入学前後からChatGPTなどの生成AIツールが広く利用可能になっており、在学期間のほぼ全期間にわたってAIと共存してきた、いわば「AI共存第一世代」にあたる学生たちだ。彼らの利用実態と不正認識を問うた調査結果は、以下のように衝撃的なものだった。
- 約9割の学生が学業にAIを使用していると回答
- 約7割が週1回以上使用
- 3人に2人が「自分の定義においてAIを使った不正をしたことがある」と認めた
- 不正を10回以上行ったと回答した学生は16%
- グループワークでの不正経験は約9割に達した
ただし、これらはあくまで自己申告であり、懲戒処分として記録された件数ではない。また、「どこからが不正か」という線引きについても学生間で認識が割れている。AI生成テキストのうち25%未満の引用・転用であれば許容範囲と考える学生が平均的な見方だったという。つまり、文章の4分の1未満の流用は「コピーではない」と見なす学生が多かったことになる。
AI検出ソフトでは対応できない理由
学校側がAI検出システムに期待を寄せるのは、コストが低いからだ。しかし、学生が生成テキストを自分なりに書き直した後では信頼性のある判定が難しいという根本的な限界がある。
この点について、コペンハーゲン・ビジネス・スクール(CBS)は口頭試問の導入理由を明示している。CBSは「提出物が本当に学生自身のものかを判断できるソフトウェアは現時点では存在しない」とし、検出ツールへの依存を断ち切るかたちで口頭評価へと舵を切った。同校の対応はデンマーク国内でも先進事例として参照されており、今回の教育省の政策判断にも影響を与えていると見られる。
一方で口頭試問には相応のコストが伴う。教員と外部試験官が課題を読み込み、設問を準備し、各学生の試問を実施して総合評価を下す必要がある。毎年約9,000人に適用すれば、短時間の試問であっても数千時間規模の試験業務が発生する。「ソフトウェア依存から人的労力へのシフト」とも言える転換だ。
3層構造の評価モデルへ
今回のSSO口頭試問はあくまで一手だ。デンマーク教育省は2028年夏学期から外国語試験を全面または部分的にアナログ化(筆記・口述併用)する方針も6月23日に発表している。アラビア語、日本語、ロシア語、トルコ語のコースでは、紙と鉛筆による試験と口頭試験の組み合わせへ移行する。
また、2025〜26年度の英語A試験では「制限あり筆記」と「デジタル使用可」を併用する実験も進んでいる。AIの使用を一律禁止するのではなく、「AIなしで何ができるか」と「AIをどう使いこなすか」の両方を問う設計だ。
結果として評価の場は3層に分かれる。
- 監督下の試験——外部ツールなしで生産できる能力を測る
- 口頭試問——自宅で完成させた成果物への本人の理解度を問う
- AI活用演習——技術を意図的・批判的に使えるかを評価する
この3層構造は、単なる「不正対策」にとどまらない設計思想を持つ。AIが流暢な文章を生成できる以上、「書かれた文章の質」だけを評価軸にすることの限界は明らかだ。デンマークはその現実を正面から受け入れたうえで、教員が「目の前の学生本人」という第二の証拠を制度として必要とする構造を組み込もうとしている。
詳細はDenmark adds oral defenses to 9,000 take-home essays as AI cheating spreadsを参照していただきたい。