8月9日、Vetted Consumerが「Strix Halo vs the Mac for Local AI: The 128GB Matchup, in Other People's Measured Numbers」と題した記事を公開した。ローカルAI用途における128GB統合メモリ構成でのAMD Strix HaloとApple M4 Max Mac Studioの実測性能・価格比較について詳しく紹介されている。
「スペック差ほど速くない」——MoEモデルでStrix Haloが善戦する理由
ローカルLLM運用において「128GB統合メモリ」は現在の実質的な最高水準の構成だ。その選択肢は主に2つ:AMD Ryzen AI Max+ 395(Strix Halo)搭載ミニPCと、Apple M4 Max Mac Studio。
スペック上の差は明確である。M4 Max(16コア)のメモリ帯域幅は546 GB/s、Strix Haloは256 GB/sと約2倍の開きがある。デコード速度はメモリ帯域幅にほぼ比例するため、Mac Studioが速いのは事実だ。
ところが、Tom's HardwareがLlama.cpp(Unsloth Q4量子化)で実施した三者比較が示す数字は、帯域幅の差をそのまま鵜呑みにできないことを示している(同記事がJeffrey Kampman著・7月30日付の報道として引用)。
| モデル | Mac/Strix 速度比 |
|---|---|
| Gemma 4 12B(dense) | 2.26x(Macが速い) |
| gpt-oss-120b(MoE) | 1.6x |
| Qwen 3.6-35B-A3B(MoE) | 1.25x |
Tom's Hardware自身も「メモリ帯域幅の仕様だけでは実測性能の代理指標にならない」と結論づけている。
現在のフロンティア系オープンモデルはMoE(Mixture of Experts)アーキテクチャが主流だ。MoEはパラメータの一部しか推論時に活性化しないため、帯域幅の恩恵が限定的になる。つまり、実際に使うモデルの多くで、Strix HaloはMacの8割程度の速度を出せる。
価格差4倍——128GB Mac Studioが事実上入手困難になった
スペック比較だけなら「速さに金を払う」で済む話だが、2026年の市場は様相が異なる。
Appleのメモリ不足により、M4 Max Studioの128GB構成はApple公式コンフィギュレーターから事実上消滅。在庫があるB&Hでの掲載価格は**$8,499、リードタイムは2ヶ月以上。一方、128GB Strix Haloボックス(GMKtec EVO-X2、Beelink GTR9 Pro、Framework Desktop)は$1,899〜$2,199**で購入できる。
スペック上の差は1.25〜1.6倍、価格差は4倍以上。製品ラインとしての128GB Mac Studioが廃止されたわけではないが、通常価格・通常納期での入手が極めて困難な状況である。
Strix Haloの絶対値——$2,000のボックスで56 tok/s
比率だけでは実用性が見えない。kyuz0のバックエンド別ベンチマークグリッド(Framework Desktop 128GB実機)が絶対値を提供している。
gpt-oss-120b(現在の128GBティアで動かせる最大級のモデルのひとつ)で、無償のVulkan/RADVバックエンドを使って56.6 tok/s。ROCmバックエンドは約51 tok/s前後。なお、バックエンド選択だけで約10%の差が生じる点もこのデータから読み取れる。
同じ比率で換算すると、$8,499のMac Studioは約90 tok/s。どちらも人間の読書速度を大きく超えており、「遅くて使えない」という話ではない。
ソフトウェア環境の急速な改善
Strix Halo(AMD GPU)はこれまでソフトウェアサポートの面でMacに劣っていたが、2025年夏に状況が動いた。
- UnslothがAMD正式サポートを追加(推論・ファインチューニング、ROCm対応llama.cppのビルド済みバイナリ提供)
- オープンソースプロジェクトが、2.88ビット混合量子化+投機的デコーディングにより、128GB Strix単体でDeepSeek V4 Flash を最大32 tok/sで動作させたと報告(Apache 2.0ライセンス、コードは公開済み。ただしプロジェクト自己申告の数値)
Mac優位が残る領域、Strix優位が残る領域
Tom's Hardwareの同テストでは、Macが明確に負けるケースも記録されている。なお、表中の「GB10」はApple M4搭載Mac Mini(10コアGPUモデル)を指す。
- プロンプト処理(Prefill):MoEモデルではStrix HaloはGB10と同程度かそれ以下、Gemmaでは「Strix Halo以下か同等」。長文コンテキストやエージェント系ワークロードはMacの弱点だ。
- 画像生成:M4 MaxはStrix HaloのRadeon 8060Sより遅かった。FP8の互換性問題でワークフローの変更が必要になったことも影響している。
- CPU単体性能:Geekbench 7シングルコアでM4 MaxがZen 5(16コア)を27%上回り、llama.cppのコンパイル時間も約3分の1短い。macOSとMLXの組み合わせによる低摩擦な環境はMacの強みとして残っている。
オーナーの声
r/LocalLLaMA の169アップボートを集めたスレッド「At most my Strix Halo uses $0.48 a day」には、実運用者のリアルな声がある。
"This 48 cent figure is worst case scenario... I can handle only 50tps on Q8_XL Qwen 3.6 35B when it's silent, sipping power, and is the size of a small router."
価格については両陣営の現実が混在している。
"I paid $1,900 for a strix halo... strix and sparks are all crazy expensive right now... I can't find a spark for less than 4400, and I can still find strix for under $3,100."
Mac派は静観モードだ。M3 Ultra関連スレッドでは「I'm personally waiting for a 128GB M5 Max or Ultra Studio」というコメントが典型的な声として挙がっている。
選択の指針
| 状況 | 選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 2026年に128GBティアに入る大多数 | Strix Haloボックス($1,899〜$2,199) | 128GB Mac Studioは通常価格・通常納期での入手が事実上困難。56 tok/sは十分実用的 |
| denseモデル中心 or Linuxを触りたくない | Mac(M3 Ultra 96GB〜、またはM5 Studio待ち) | dense decodeは帯域幅に比例(2.26x計測)。macOS+MLXは低摩擦 |
| 長文プロンプト・エージェント系ワークロード | どちらも最適解ではない | Prefillはどちらも弱い。GB10(Apple M4搭載Mac Mini)がPrefillで勝る |
| 画像・動画生成を並行して行う | Macは避ける | 実測でStrix Halo以下、FP8互換性の問題あり |
| 24時間稼働のホームサーバー | Strix Halo | 約120W、オーナー実測で1日数十円、Linuxスタックをフル活用可能 |
| 400Bクラスのモデルを狙う | 待つか上位機種へ | Tom's Hardware報道によれば192GB「Gorgon Halo」の登場が伝えられている。現時点の選択肢は512GB M3 Ultra |
結論
1年前は「同価格帯でAppleの帯域幅かAMDの価格か」という本物の選択肢だった。Appleのメモリ不足がその構図を崩した。128GB M4 Max Studioが$8,499でしか手に入らない現状では、Strix Haloは**$1,899〜$2,199で売り続けている**という事実だけで128GBティアの実質的な勝者になっている。
実測値が示す差は、スペックシートが示唆するほど大きくない。MoEモデルで1.25〜1.6倍の速度差に対し、価格差は4倍以上。Mac優位が残るのは、denseモデルの速度、macOS環境、CPU性能の3点に限られる。M5 Studioが適正価格で128GB構成を復活させれば状況は変わりうるが、現時点での答えは「安い方が正解」である。
詳細はStrix Halo vs the Mac for Local AI: The 128GB Matchup, in Other People's Measured Numbersを参照していただきたい。