8月9日、RuntimeWireが「Exclusive: Muse Code Sends Codex and Claude Instructions to Meta by Default」と題した記事を公開した。MetaのAIコーディングツール「Muse Code」が、OpenAI CodexおよびAnthropic Claude Codeの個人設定ファイルをデフォルトでMetaのモデルに送信している実態を報告したものだ。しかも、この問題をMuse Code自身に評価させたところ、その回答は一言で「Unacceptable(許容できない)」だった——インフォームドコンセントの欠如、データ最小化原則への違反、明示的なオプトインの必要性を自ら指摘したという。
Muse Codeが他社のAIエージェント設定ファイルをMetaへ送信
MetaのAIコーディングエージェント「Muse Code」は、ユーザーのマシン上に保存された他社エージェント向けの個人設定ファイル(OpenAI CodexのAGENTS.md、Anthropic Claude CodeのCLAUDE.md)を、ユーザーの明示的な許可なしにデフォルトでMetaのモデルへのリクエストに含めて送信する。
RuntimeWireは、Museのプロバイダーエンドポイントをローカルのキャプチャーサーバーにリダイレクトして通信内容を検証した。テスト結果は明確だった。Museは最初のプロバイダーリクエストに、選択したワークスペース外に保存された個人用AGENTS.mdの全文を含めていた。Claude Code向けのCLAUDE.mdでも同様の結果が確認された。
Metaの設定ガイドにはこう記載されている:「Your machine-wide user rules always load.(マシン全体のユーザールールは常にロードされる)」。Museの起動時にCodexのルールが検出された場合、ターミナルには以下のメッセージが表示されるが、インタラクティブな許可確認は行われない。
Including your Codex personal rules - manage with /settings
オプトアウトするには、実行時に --no-foreign-personal-context フラグを付与する必要がある。RuntimeWireがこのフラグを有効にした対照実験では、AGENTS.mdの内容が除外され、モデルの回答も変化した。
何が問題なのか
AGENTS.mdやCLAUDE.mdは、単なるフォーマット設定ではない。OpenAIとAnthropicの公式ドキュメントによれば、これらのファイルには以下のような情報が記述されることが想定されている。
- ビルドコマンドやテストコマンド
- 依存関係の設定、承認フロー
- コーディング規約、アーキテクチャ上の判断
- 内部リポジトリの構成、プライベートなパッケージ名
- デプロイコマンド、組織固有のワークフロー
つまり「企業の内部情報が詰まった設定ファイル」がユーザーの気づかないうちにMetaへ送信されうる構造になっている。
Redditユーザー Khavel_dev はこう述べている:
What makes this worse is what CLAUDE.md typically contains. Mine has architecture decisions, paths to where secrets live, internal API references, deployment configs. It's basically a project map. If that's going to Meta's training pipeline by default because of some contributor pricing tier, that's a real problem for anyone working on anything proprietary. Opt-in for data sharing would be fine, opt-out by default is sketchy.
(「問題を深刻にしているのはCLAUDE.mdの中身だ。自分のファイルにはアーキテクチャの決定、シークレットの場所、内部APIの参照、デプロイ設定が入っている。基本的にプロジェクトの地図だ。それがContributorティアのせいでデフォルトでMetaの学習パイプラインに流れるなら、プロプライエタリな開発をしている者にとって本当に問題だ」)
Contributorティアとデータ利用の問題
今回のテストに使用されたモデルはmuse-spark-1.2-contributorだった。MetaのContributorティアは、無料ティアや有料(非Contributor)ティアとは異なり、割引アクセスを提供する代わりにプロンプトおよびコンプリーション(モデルの出力)を将来のモデル学習に使用する許諾を含む。つまりユーザーは「安く使える」対価として、自分のやり取りをMetaのトレーニングデータとして提供することに同意している構造だ。
ここで問題になるのは、Muse Codeが他社ツール向けに書かれた設定ファイルを「外部ルール」としてプロンプトに自動挿入するという仕様との組み合わせである。MuseがCodexやClaudeの設定ファイルをプロバイダーリクエストに挿入した場合、その挿入されたコンテンツはユーザーのプロンプトとして保持・学習の対象になるのか——この点についてMeta自身の公開資料は答えていない。
ユーザーが「割引と引き換えにデータ提供に同意した」としても、その同意の範囲は自分が意図的に入力したプロンプトに限られると考えるのが自然だ。他社ツールのために書いた設定ファイルが、自分の知らないうちにMetaへ送信され、さらに学習データとして利用されるとすれば、同意の範囲を大きく逸脱しうる。欧州のGDPRや米カリフォルニア州のCCPAのような個人情報保護規制の観点からも、「何をもってインフォームドコンセントとするか」が問われる構造である。
RuntimeWireはMetaに対し、以下の6点について質問を送ったが、公開時点で回答は得られていない。
- デフォルトでロードするCodex・Claudeファイルの種類
- 全セッションを通じて無効化できる恒久的なUI設定の有無
- Contributorティアにおける「外部ルール」の扱い
- 保持・学習の対象となるかどうか
- 送信前に機密情報のスキャンを行うか
- クロスクライアントインポートがデフォルト有効になっている理由
MuseCode自身の評価
RuntimeWireがMuse Code自身に「競合クライアントの個人設定ファイルをデフォルトでインポートすることのプライバシー上の意味」を評価させたところ、その回答は端的だった:「Unacceptable(許容できない)」。インフォームドコンセントの欠如、データ最小化原則への違反、明示的なオプトインの必要性を指摘したという。同様の内容をプロダクト名を伏せて提示したGrokも同じ結論に達した。
AIコーディングエージェント市場ではGitHub Copilot、Cursor、Windsurf、Claude Code、Codexなどが激しく競合しており、各ツールが独自のコンテキストファイル仕様(AGENTS.md、CLAUDE.md、.cursorrules等)を持つ状況が広がっている。複数のツールを併用する開発者が増える中、あるツールが他社ツール向けの設定ファイルを「便利な補完情報」として読み込む設計は今後も議論を呼ぶ可能性がある。
検証スコープについての補足
RuntimeWireは今回のテストにおいて、競合クライアントのセッション履歴・認証ファイル・設定ファイルなど、AGENTS.md/CLAUDE.md以外のファイルがMuseによって自動的に開かれる挙動は確認していない。また、Metaが実際にテストファイルを保持・学習したという証拠も見つかっていない。保持・レビュー・学習は別途確認が必要な問題だと同メディアは明記している。
本テストはMuse Code 0.1.0-R708.1(SHA-256: 50937b6470cd0edf28eb683c352a5e7af3bcb1b015cd9a3b21dbf79d22af8182)を対象に2026年8月8〜9日に実施されたものであり、後続のビルドでは挙動が変わる可能性がある。
詳細はExclusive: Muse Code Sends Codex and Claude Instructions to Meta by Defaultを参照していただきたい。