8月8日、The Next Webが「AI boom forces companies to rethink how they measure business value」と題した記事を公開した。AIへの投資が拡大する一方でROIを実現できている企業がわずか8%にとどまる現状と、その背景にある「AIを孤立したツールとして導入する」という構造的問題について詳しく紹介されている。
95%が戦略を持ち、ROIを確立できているのは8%
KPMGのGlobal AI Pulse Q1 2026レポートによると、調査対象企業の95%がAI戦略を策定済みである。にもかかわらず、**確立されたROIを報告できている企業は8%**にとどまる。
この数字が示すのは、戦略の策定とROIの実現が完全に切り離されているという現実だ。KPMGの別の調査(AI Quarterly Pulse Survey)では、78%のリーダーが「間接的・長期的な便益の定量化が難しい」ことをAI ROI実証の主要な課題として挙げている。スキルギャップやスケーリングの問題と並んで、「そもそも何を測ればよいのか」という測定軸の問題が根本にある。業務効率の改善や意思決定の高速化は感覚的には認識できても、それをドルや円で表現しようとした瞬間に、帰属関係の複雑さや時間軸のズレが壁になる。
PwCの第29回グローバルCEOサーベイでも、AIのリターンが不均一であることを背景に、近期の収益成長に対するCEOの確信が低下していることが示された。投資は続けているが、確信を持って「これが効いた」と言える根拠を持てていない企業が大多数という構図だ。
「AIをソフトウェアとして買う」という習慣が問題の根
AI統合成長インフラを専門とするProfitalizeのCEO、Jon Webergはこのギャップの原因を明確に指摘する。多くの組織がAIを「もう一つのソフトウェア購入」として導入しており、事業運営の基盤に組み込んでいないという構造的な問題だ。
「AIは、すべての意思決定にコンテキストが与えられたとき、大幅に価値を高める。コンテキストは、接続されたシステム、共有された情報、継続的な学習によって育まれる。インテリジェンスが孤立した環境で動いていると、各ツールは問題の断片しか解決できない」
— Jon Weberg, CEO of Profitalize
マーケティング、営業、カスタマーサクセス、オペレーションがそれぞれ専用のAIソリューションを導入すると、各プラットフォームが独自の情報・推奨・優先度を持つ。人間のチームなら会話と経験でこの隙間を埋められるが、AIシステムは共有データと協調アーキテクチャがなければ同じ組織的な状況把握を持てない。
この「孤立したAI」の弊害は測定の困難さにも直結する。部門ごとに導入されたツールが独自の指標で成果を報告すれば、組織全体としてのROIを算出する際に数字が断片化し、統合された評価が不可能になる。個々のツールが局所的には機能しているように見えても、全体として何がどれだけ改善されたかを問われると答えが出てこない——これが95%と8%の乖離を生む構造的な理由のひとつだ。
Webergが提唱する「AI Synthesis」フレームワーク
この問題意識からWebergが開発したのがAI Synthesisというフレームワークだ。※編集部の考察:この「AI Synthesis」はProfitalizeが独自に定義・体系化した概念であり、業界標準の用語ではない点に注意されたい。AIを独立したアプリの集合体ではなく、接続された運営インフラとして捉えることがその核心にある。
具体的には、各部門のAI機能が情報を横断的に共有し、ある部門のインサイトが他部門の意思決定に流れ込む「継続的なフィードバックループ」を作る。マーケティングの活動が営業会話を豊かにし、顧客とのやり取りが次のキャンペーンに影響し、オペレーションデータが戦略計画を導く——これをひとつの統合環境で実現するという考え方だ。
「すべての機能にわたって一つの継続的な会話を作れれば、AIは孤立したタスクを最適化するのではなく、組織全体を改善し始めることができる。判断・監視・方向づけを担う人間が中心にいることで、システムに目的が生まれる」
— Jon Weberg
このアーキテクチャ上の転換は、ROI測定の問題にも直接作用する。データとインサイトが統合されていれば、特定の施策が事業全体にどう波及したかを追跡する経路が生まれ、「何が効いたか」の帰属関係を明確にしやすくなるからだ。
測定軸そのものを変える必要がある
Webergの主張を裏付けるように、AnthropicのAI経済指標2026 Economic Indexも独立した視点から同様の問題提起を行っている。同レポートは、広義の採用指標だけに頼るのではなく、AIが実行する業務の複雑さと経済的価値で評価するべきだと提唱している。ログイン数やサブスクリプション数ではなく、AIがどれだけ意味のあるビジネス活動に貢献しているかに焦点を移す視点だ。Webergが「孤立したツールの集積では測定できない」と指摘する構造的問題と、Anthropicが「採用数ではなく質的貢献で測れ」と求める方向性は、互いに補完し合う議論として読める。
記事の結論として、次のAI採用フェーズは「個別ツールの選定」ではなく、組織アーキテクチャの問題になるとWebergは述べている。インテリジェンス・データ・人間の判断が相互に強化し合う接続されたシステムを構築した組織が、従来のROI指標を超えた価値を引き出せる位置に立つ、という見立てだ。
詳細はAI boom forces companies to rethink how they measure business valueを参照していただきたい。