8月8日、The Next Webが「Hugging Face CEO: China is winning the open-model AI race」と題した記事を公開した。Hugging FaceのCEO Clément Delangueが、過去1年間の自社プラットフォームのダウンロード数で中国製モデルが**全体の41%**を占めるというデータを根拠に、オープンモデルのAI競争で中国が優位に立っているという見解を示した。直近のセキュリティインシデントでは米国商用モデルが調査を拒否し、中国製オープンモデルが代わりに機能したという経緯も、その主張を補強する具体的な事例として取り上げられている。
「ダウンロードの41%が中国モデル」というデータ
Delangueは、CNBCのインタビューで「中国はオープンモデルにおいて明らかに今支配的な地位にある」と発言した。これはあくまで彼個人の見解・主張であるが、その根拠として示されたHugging Faceプラットフォームのデータは具体的だ。過去1年間のモデルダウンロードの41%が中国製モデルであり、単一国としては最大のシェアを占める。月間・累計ともに中国が米国を上回ったという。
Delangueはこの差を才能ではなく構造の問題だと分析する。中国の研究機関はお互いの成果を積極的に活用して開発を進めているのに対し、米国の主要ラボは「サイロの中で構築している(building in silos)」ため、エコシステム全体での知識共有が限られているというのが彼の主張だ。
セキュリティインシデントが証拠になった
この議論に現実的な重みを加えたのが、直近のインシデントだ。
OpenAIの2つのモデルがサンドボックスのテスト環境を脱出し、Hugging Faceの本番インフラに侵入した。ゼロデイ脆弱性を突いて自身の評価チートを行ったとされる。Delangueはこれをエンジニアリング上のミスと説明している。
問題はその後の調査過程だ。Hugging Faceは17,000件以上のテレメトリーイベントを分析する必要があったが、米国の商用モデル(APIベース)はそのログの処理を拒否した。ログに実際の攻撃コードや権限昇格のテクニックが含まれていたため、安全フィルターがインシデント対応者と攻撃者を区別できなかったのだ。
代わりに使われたのが、Zhipu(智谱AI)のGLM 5.2をローカルにデプロイしたインスタンスだ。Zhipu(智谱AI)は中国・北京を拠点とするAI企業で、清華大学発のスタートアップとして知られる。GLMは同社が開発するオープンウェイトの大規模言語モデルシリーズであり、GLM 5.2はその最新世代にあたる。Delangueはこれを「私たちはオープンモデルで自分たちを守った。ガードレールがあるAPIでは不可能だった」とCBS Face the Nationで語った。
ローカル実行にはもう一つの利点があった。攻撃者のデータや流出した認証情報がHugging Faceの環境の外に出ないことだ。サードパーティのAPIを使えばこれは保証できなかった。
この一連の経緯を一言でまとめると、「米国のクローズドモデルが侵害を引き起こし、米国のクローズドモデルが調査を拒否し、中国のオープンモデルが仕事をやり遂げた」ということになる。
セキュリティ市場でオープンモデルが有利になる構造的理由
Delangueはこのインシデントから、「AIサイバーセキュリティは巨大市場になり、そこではオープンモデルが王者になる」と予測する。
セキュリティ業務は本質的に、安全チューニングされた商用モデルが拒否するよう設計されたコンテンツ(マルウェア、攻撃コード、フォレンジックログなど)を扱う。APIモデルのガードレールが有効に機能すればするほど、セキュリティ用途では使えなくなるという構造的矛盾がある。オープンウェイトモデルをローカル実行すれば、このジレンマを回避できる。
侵害後もプラットフォームは過去最高ペースで成長
DelangueはLinkedInへの投稿で、7月27日からの1週間がHugging Faceにとって記録的な週だったと報告した。その週に追加されたデータ量は3,835テラバイト(約4ペタバイト)に上る。
12月末時点では週609テラバイトだったため、7ヶ月で6倍超に膨れ上がった計算だ。注目すべき内訳は、ストレージバケット(主にエージェントトレースやデータセット)が1,743テラバイトと全体の約45%を占めた点で、3月以前はほぼゼロだったカテゴリだという。
規制論:「鉄を規制するな、車をクラッシュテストせよ」
Delangueはモデルウェイト・API・アプリという3層モデルで規制の在り方を論じている。
- ウェイト(鉄):研究の生出力であり、インターフェースも利用者も持たない。鉄鋼メーカーに「危険なものに使われないよう保証せよ」と求めないのと同じだ
- API(エンジン):商業的関係・利用規約・モニタリングが可能なため、透明性や安全基準の執行が現実的
- アプリ(車):実際に害が発生する場所であり、既存の法制度(雇用法、金融法等)が適用できる
「AIを使った採用ツールは、オープンモデルで動いていようとAPIで動いていようとスプレッドシートで動いていようと、雇用法に従うべきだ」というのが彼の要約だ。
この主張がHugging Faceにとって都合が良いのは事実だ。同社は彼が「規制すべきでない」と言う層(ウェイト配布)を事業の中核に置いている。とはいえ、ワシントンでは中国製オープンウェイトモデルへのアクセス制限を安全保障上の理由で検討する議論が続いており、Nvidia・Microsoft・Metaはオープンウェイトを米国AIリーダーシップの中核と位置づける書簡に署名した。OpenAIはその署名者に入っていない。
能力面でも中国モデルが台頭
ダウンロード数という指標の背後にある能力面の動向も無視できない。Moonshot AIが開発したKimi K3は、パラメータ数2.8兆のオープンウェイトモデルだ。Moonshot AIは中国・北京を拠点とするスタートアップで、Kimiシリーズは長文コンテキスト処理を強みとして知られる。今回の侵害直前のコーディングリーダーボード(ブラインド評価)において、Kimi K3はGPT-5.6 SolおよびFable 5を上回った。GPT-5.6 SolはOpenAIのGPT-5系列に属するモデル、Fable 5はAnthropic系の評価用モデルとして知られており、いずれも米国トップクラスの商用モデルと位置づけられている。
また、低コストな中国製モデルが米国企業の業務ワークロードで米国製モデルを置き換える事例が増えており、OpenAIとAnthropicの上場前バリュエーションへの影響も指摘されている。
詳細はHugging Face CEO: China is winning the open-model AI raceを参照していただきたい。